ムンバイに住む老齢の民謡歌手が逮捕される。煽情的な歌詞が続く彼の歌が、下水掃除人を自殺へ追いやったというあまりにも不条理な容疑。やがて裁判が始まり、彼の人権を尊重する弁護人、強引に刑の確定へといそぐ検察官、そして対立するふたりのあいだにはさまれた裁判官。法廷における三つどもえの攻防に物語の軸足は移っていく。
カメラはじっとして対象をとらえたまま、法廷でのやりとりを淡々と映し出していく。余計な心理描写もないし情緒的な音楽も流れることがないから、まるでドキュメンタリー作品のようでもある。そしてたぶんそれはわずか数秒のことなんだろうけど、カットのひとつひとつが動きのないまま少しずつ長い目なので、このゆったりとした流れについていくにはちょっと忍耐力が必要となる。
それでも法廷場面とは対照的に描かれるムンバイのひとたちの日常生活の様子がとても興味深い。こちらのほうもけっこうなんでもない、そしてどうでもいいようなことをえんえんと撮っているように思える。インドの裁判やカースト制度などの社会システム、大家族のありかたなどにもっと知識と理解があれば、このあたりの関係をより深く味わえたかなと思う。
物語の本筋からは離れるけど、主人公がステージで演じる音楽は、“民謡”というからにはトラディショナルなものなのだろうけど、ラップのような言葉の運びやバックコーラスとの掛け合い、バックが奏でるリズムなどがとても興味深かった。ボリウッドだけがインド映画にあらず。この滋味あふれる作品、チャイタニヤ・タームハネー監督はまだ30歳というから驚きだ。
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