午後8時、診療時間をとっくにすぎていたので若き女医ジェニーはインターホンに応じなかった。その翌日、近くで身元不明の女性の遺体が発見される。そして診療所のモニターに記録されていた映像は、必死でドアベルを押すその女性のすがただった。自責の念と医者としての正義感から、ジェニーはひとりその女性の足どりを追う…。
たんなる謎解きサスペンスものだったら、これほど退屈な作品はないかもしれない。そう、ジェニーの取った行動は、“まさに本職の刑事顔負けの”などという表現からは対極の位置にある、実に淡々とした静かなものばかり。時間の経過とともに少しずつ事件のあらましが見えてくる、などという観る側に優しくわかりやすい展開はまず期待しないほうがいい。
ジェニーを演じたのはアデル・エネルということし28歳になるパリ生まれの女優。女医にしては、という言いかたは偏見に満ちているかもしれないけど、実に華奢でチャーミングな女性。一見ミスキャストに見えなくもないが、物語がすすむにつれて周囲との軋轢にめげない芯の強さみたいなものを少しずつ浮かび上がらせているから今後が楽しみな存在だ。
これまでさまざまな社会問題に鋭く切りこんできた監督・ダルデンヌ兄弟にしては、今回の作品はパーソナルな領域にとどまっているのかなと最初は感じた。しかしジェニーをとりまくひとたちが抱える個人的な問題の向こうには、単にベルギーの地方都市で起きた事件をはるかに超えた、現在の世界が抱える多くのシリアスな現状が映し出されていたのだった。
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