その曲は「夜は恋人」と「フランクの夢は夜ひらく」。タイトルは「デラックス20 フランク永井〜夜のムード」(1974:20CP-8031-PONY)である。ポニーのカセットテープ版である。
この表面の出だしの2曲だ。驚くことに他18曲はビクターからさまざまなLPでカバー曲としてリリースされているが、ざっと聴く限りではこのテープの企画のために新たに吹き込みなおしている。別テークということで、別の魅力が引き出されている。
ポニー版といえば、フランク永井データブック「フランク永井〜魅惑の低音のすべて」で紹介したように「フランク永井〜最新ヒット20を唄う」がある。このカセットも20曲すべてがカバーだが別テークであり、独特の味がでている。しかもこのカセットでも最初の曲は藤圭子の「命預けます」(カバー)だ。
どの曲もフレッシュだが、2つのテークがすでにリリースされている石原裕次郎の「夜霧よ今夜も有難う」の3つ目のテークが楽しめる。
カセットテープ盤というのは、40年ほど前には若者も年寄りもマイカーの必需品であった。どのレコード会社もEPやLPとともにカセットテープ版を多数だした。激しい販売競争で企画力が売り上げのキーになった。ポニーはビクター以外のレーベルで発売することがまずないフランク永井のものに着目し、紹介した2つのカセットを実現している。
さてその歌だが、タイトルの夜のムードというテーマに沿った編曲にのって、そうした雰囲気がむんむんのものになっている。全曲ともそうだ。
さすがにナイトクラブやキャバレーのBGMの帝王であっただけに、夜のムードを盛り上げる雰囲気づくりの歌唱がすばらしい。デートをカクテルと会話で楽しむカップルの邪魔をしない。いわゆる押しのないしずかな、癒しの唄い方だ。
「夜は恋人」は中原美紗緒が歌った洋楽。「フランクの夢は夜ひらく」はオリジナルではなかろうか。作詞家麻生たかしの詩で「夢は夜ひらく」は聞いていない。他の歌手のオリジナルであれば「フランクの…」とはならないだろう。
「夢は夜ひらく」はあまりにも多くの歌手が歌っている。先鞭をつけたのは園まりだったと思うが、圧倒的な印象を残したのは何といっても藤圭子だろう。
「圭子の夢は夜ひらく」は若い髪の長いが笑わない美人が地獄の底を見たようなドスのきいた印象的な声で歌い上げた。全国ドサ回りでならしたこともあるが、その歌謡界への登場は誰をも驚愕させる。それ以来、○○の夢は夜ひらくというのが、つぎつぎと登場した。その後のカバーを含めたらレコードになったものだけでも百曲にもなるかもしれない。
まさかフランク永井まで歌っているとは思わなかった。
「夢は夜ひらく」はフランク永井の盟友でもある曽根幸明の発掘作品だ。曽根については彼自身が何冊か書籍を書いている。戦後の時代がよくわかる。歌謡界のリアルな実態をあからさまに表現している。ゆえに表現の自由といいながらも実際は徹底的な自己規制(出版コード)が支配している現代では閲覧が難しいのだが、同時代を生きてきたものにはバカみたいな話だ。
曽根はビクターの重鎮作曲家の一人だが、藤田功名で歌も歌っていて、フランク永井とのカップリングもある。フランク永井には「恋のロマネスク」など5曲を提供している。幸明が康明としても提供していて、データブックを編纂した時点で同人であることの確認がとれなかったのだが、昨年「懐かしのフランク永井〜シングル全集」が出されたタイミングで確認できた。曽根自身が「夢は夜ひらく」を愛まち子とのデュエット版で出している。
別項で「上海帰りのリル」の根津甚八版が話題になったが、根津がこの「夢は夜ひらく」の根津版を歌っている。唄う歌手によって「夢」とその色合いがすべて違い、それらをこの機会に楽しむことができる。
今回のカセットテープも、いつもフランク永井情報を教えてくださるAさんからの提供。時代の流れに埋もれてしまい、永遠に表に出えないようなような音源を豊富にお持ちで、発見があるごとにご連絡をくださる。大いなる感謝をこめてここに記させていただいた。
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