15年前に1度獲っただけの文学賞にすがり、探偵事務所で適当に働きながら作家の夢を捨てきれないダメダメ男。元・妻は息子とともに去ってしまい、唯一頼りにできる相手は団地に住む母親だけ。主役にイケメン阿部寛を起用したのは、もしいかにもなダメ男俳優だったら、マジで救いようがない物語になってしまうことをおそれたがゆえのキャスティングかも。
ありふれた日常が生み出す会話のやりとりが実に興味深い。これ関西弁やったらめちゃベタやん、なんて思う。とりわけ母親役・樹木希林に拍手。まるで先ず彼女に好き勝手演技させておいて、あとから周りのセリフを組み立てていったような感じさえする自然体。そしてリアルな商品やお店の固有名詞がやたらと各人の口から飛びだし、物語の日常性により拍車をかけている。
作家に未練がある主人公が、気になる言葉の群れを付箋に書きこんでは机のまわりに貼りめぐらせるシーンがあるけれど、この作品自体、大人とか男とか家族とか人生とかを表現した、さまざまな味のあるフレーズがいくつもセリフに織りこまれ、観ているこちらは思わずギクリとしてしまう。タイトルは昭和歌謡名曲の一節、これもまたセリフの一部として登場。
台風が直撃する一夜に登場人物を追い込み、その非日常な状況をもってクライマックスシーンとする…。いままで何度となく内外の映画で観てきたこのパターン。ところがそこから導かれた物語の着地は、「誰も知らない」や「そして父になる」同様、現代家族のありかたを直視することに長けた是枝監督ならではのもの、この“柔らかい切れ味”はさすがだなと思った次第です。
ログインしてコメントを確認・投稿する