(きのうの続き) 日比谷線に乗っていた先輩女性社員Kさんが所属する課はその日早朝ミーティングが予定されていた。毎週月曜日なのかどうかわからないけど、とにかくあの3月20日、Kさんはふだんより一時間早く出社しなければならなかった。早くからフレックスタイムを導入し、一定のキャリア以上の社員の出退社は個人の自由にまかされている会社にもかかわらず。
もうおわかりでしょう、早朝出社さえなければ、ということ。なので同じ課の他の社員たちも1本前や1本後の日比谷線に乗っていた。丸ノ内線や千代田線でも同様、被害に遭った車両の1本前や後に乗っていた社員もいた。1本前に乗っていて難を逃れた社員はともかく、1本後に乗っていた社員はトンネルの中で急停車した車両のなかにえんえん閉じこめられることになった。
口元を押さえ苦しそうに地下鉄ホームに倒れこんでいるKさんのすがたをとらえた写真は、この事件のむごさを象徴する絵面のひとつとして、その後媒体に何度も登場した。もちろん顔にはモザイクがかけられていたけど。搬送された病院まで彼女の衣服を取りに行った後輩社員は、十分洗浄したものにもかかわらず、衣服を持ち歩いているうちに気分が悪くなってしまった。
Kさんにたいする配慮か、社内ではその後しばらくこの事件のことを口にするのはタブーになった。なのでこれ以上の詳しいことはあまりわからない。ただわかっていることといえば、すくなくともKさんの課だけはその後いっさい早朝ミーティングをやらなくなったこと、そして私より10歳以上年上でバリバリのやり手社員だったKさんが、この後すぐに結婚したことだ。
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