物語がスタートする1995年という時代設定がなかなか効果的なんですね。世の中がIT化する夜明け前、わずかながら感じるその兆しが手づくりの辞書編纂にもしのびよってくるんです。そして当時の新語・流行語が、いまではすっかり定着していることが観ているこちらにはよくわかるんです。「舟を編む」、辞書編纂に人生をかけた男の物語。
主人公の馬締(マジメ)を演じるのは松田龍平。名前のとおりマジメで不器用な若手社員を見ていると「蘇える金狼」でのお父上のすがたがダブってきます。恋するお相手香具矢(かぐや)役は宮崎あおい。このふたりの成り行きは前半部分でひとまず納められ、舞台が2008年にとぶ後半では辞書完成までの道のり一本に物語は集約します。
辞書編纂に人生をかける男たちとその周辺。オダギリジョー演じるお調子者の先輩社員も面白かったけど、むしろ辞書監修者役を演じた加藤剛の知性ある枯れた味わいのほうが印象に残りました。小林と八千草のダブル“薫”はちょっと顔見せっぽかったな、別に彼らでなくてもって感じです。そして麻生久美子があんなカタチで出てくるとは。
馬締と香具矢がツーショットになるシーンの緊張感がたまらなくいいんですね。うまいぐあいにピアノの音が重なって…。ちょっとイライラもするけれどずっと観ていたくもなる。そのいっぽう辞書作りにおけるドキュメンタルな部分をもっとふくらましてくれたらなどと贅沢なことも言いたくなる。どちらにしても退屈して“舟を漕ぐ”ようなことはいっさいない清々しい作品でした。
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