この日、梨園は大きな存在を失った悲しみにつつまれていました。そして主演の片岡愛之助は終演後のあいさつで哀悼の意をしみじみと語ってました。しかしこの日の演目《GOEMON》はそんな悲しみをぶっとばせとばかり、ケレン味だらけの荒唐無稽芝居、歌舞伎にたいする固定概念がすっかりどこかへいってしまう、なんでもありの一大スペクタクルでありました。
舞台中央奥には電光きらめく巨大な十字架、いや全体のセットそのものがまるでロックコンサートばりの無機質なもの。スモークはたかれ四方八方からまばゆいばかりのライティングが飛びかうなか、回り舞台いっぱいにしつらえたメタリックな台座のうえで、主人公石川五右衛門はキメのセリフ「絶景かな、絶景かな〜」を高らかに謳うのでした。
だいたい設定が大胆そのもの。五右衛門の父親はスペイン人だと、そして彼はなんと歌舞伎の始祖・出雲の阿国に父の祖国の踊りフラメンコを教えるのです。そう、ふたりがフラメンコを踊りこなす場面がハイライトのひとつ。ここに至って歌舞伎役者ではない実際のフラメンコダンサーが華麗な踊りを見せていたことは単なる前ぶれだったと我々は気がつくでした。
もはやこれは“古典芸能”なんてものではなく、これでもホンマに歌舞伎かいなと思ってしまいます。玄人の“見巧者”なら眉をひそめるかもしれません。でもこれもやっぱり歌舞伎のひとつなのでしょう。今回の破天荒な出しものは、大きな存在を失ったばかりのこの世界が発信する、未来の歌舞伎にたいする決意表明のように思えたのでした。
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