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2020年07月10日01:57

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シュレシュティンガーの光

 私は落ち込んでいた。学校に行きたくない、と母にゴネる。見かねた父がため息を吐く。そして両の手のひらをクの字に曲げて張り合わせ、中に空洞を作る。
「この中に何を閉じ込めたと思う?」
「何って?見てたけど何も入ってないじゃない」
「朝の光がきらきらとそこら中を飛び回ってたから、そいつを閉じ込めたんだ」
「嘘だー。光なんて閉じ込められないよ」
「そうかな?」
「そうだよ。手のひらで覆っちゃたから、その中は真っ暗だよ」
「父さんはね。この手のひらの中には、朝の世界から遮断されて迷子になった光が皓々と照っていると思う。賭けてもいい」
「ホントに?何を賭けるの?」
「負けた方が何でも一つ言うことを聞く」
「面白そう」
「じゃあ賭けは成立だな?」
「うん」
「よし、じゃあ開けるぞ」
 父が手を開くとそこには朝の光が有りました。
「父さんの勝ちだな」
 私は口を歪め反論しようとしたけど、残念ながら何も思いつきません。
「じゃあ、一つ言うことを聞くんだぞ」
 私は泣きそうでした。だってどうせ学校に行けって言うに決まってるから。
「父さん、会社を休むから、今日1日一緒に遊ぼう。そのかわり明日からはちゃんと学校に行く。どうだ?」
 私は返答に困り、父の手のうえに差す朝の光を暫く眺めていました。そのうち光はきらきらと揺らぎ、私の目から零れた。
 
 大人になった今、父の手の中にあったであろう光を、私は信じ始めている。



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