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2017年08月24日16:36

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煉獄2165 四話

 「技官、b53zeuの作業が遅延している。応援に行かせてくれ」「状況は?」コギト、エリアbの作業状況をグラフィカルに示す。「大分遅れてるな。仕方ない。応援を手配する。b54は作業を続行しろ」「俺に行かせてくれ」「貴様はノルマが未達じゃないか」「このエリアでは自分が一番進捗しているはずだ」「いや、b55が完遂している」「嘘だろ!」「b54は作業に戻れ」従うしかない。残りの作業を片付け、ネットから帰還、雨の気配は失せ、視界はゴーグルの内に籠もった闇、ゴーグルを外す、雲霞のように闇が失せ、何もないデスク、ちかつく照明、ゴーグルを置く、ことり、「俺より先に完遂だと?」俄には信じがたい。技官は「b55」と言った。b55、俺より深くネットに潜れるというのか?ゼゥのNoがb53、コギトがb54、ならばb55は、隣。
 席を立つ、パーティションに手を掛けつま先立ちに覗く。そこには、コギトの座っているのと同じ簡素なデスク、椅子があり、椅子の上にはぼろ布、ぼろ布の塊がある。人には見えない。どう見てもぼろ布の塊。人の気配は無い。背後から声「アニキ、助かったよ」なんとか作業を終えたゼゥ。「俺じゃない」「え?じゃあ誰?」言い終わるタイミングで、コンベアに乗った朝食が流れてきた。「続きは飯でも食いながら話そう」

 広場、円形の広場、中央にはホログラフィーの庭、偽物の木々に朧気な鳥たちが集い機械の声で鳴いている。広場の外壁には無数の扉、というか外壁は扉の連なりだけで形成されている。その一角、朝食の乗ったプレートを手にコギトとゼゥ、同時に扉から出てきた。
 瓦斯発電の調子がいいに違いない。広場の天井に据えられた紫外線灯が珍しく煌々としている。紫外線に釣られて、続々と扉から児童たちが出てくる。ベンチに腰掛け、遅い朝食、うやらましそうに培養肉を睨むゼゥ、コギト意に介せずかぶりつき、食いちぎった。唾飲み込みながらゼゥ、「凄い処理速度だったから、てっきりアニキだとばかり思ってた」「俺が行くつもりだったが技官がb55に行かせるって」「b55?」外壁の扉の数は64、つまりこの区画、エリアbには、1からはじまり64までのナンバーを持つ児童が存在する。55の扉、閉まったままだ。
 「なぁにまた技官の悪口?」コギトの横にピタリと身を寄せ、腰掛ける少女。「テスカ、アニキにくっつくな。迷惑してんだろ」「迷惑なんかじゃないわよ。ねっ」コギト、これ以上ない迷惑気な表情を返す。少女はお構いなく青白い笑顔を返した。
 「b55の話をしてたんだ」「55?」テスカ、栗色の前髪をくるくると指で巻ながら「知ってる。手足が無い子でしょ」「手足が、無い?」「んー、前にいた施設で」「事故があった?」「いや、切られたって噂よ」コギト、ゼゥ、顔を見合わせ言葉を失う。二人の反応を面白がり、テスラは目を輝かせる。
 「b55はここに来る前、退役軍人が仕切ってたヤバい施設にいたって。聞いたことない?缶詰工場の話」「あ、聞いたことある」身を乗り出してゼゥが応えた。「ポッドに缶詰にされて、作業させられるって」「そうそう、手足を切られてね」「なんで、手足を切る必要がある?」「脱走防止と、あと作業能力を向上させるため」「手足を切ると作業能力が向上するのか?」「身体感覚がなくなった分、脳のメモリが軽くなるって」「ひどい話だ」ホログラフィーの庭が切り替わり、小さな滝、きらきらと水が落ちる。「手足だけじゃなくって、鼓膜破られたり舌抜かれた子もいるって」言葉を失う。暫く沈黙。行く当てのない三人の視線が、滝に集まる。滝、突如乱れて、人影が現れる。
 「テスカ、探したぜ」背の高い男、露出した腕に電子回路のような刺青。刺青は腕を伝い、首筋に伸びて終端を目元に行き渡らせている。目元に行き着いた刺青は、皮膚を乗り越え眼球に侵食し、黒い血走りとなって男の印象に凶悪さを与えている。「おい片眼野郎、俺の女にちょっかい出すな」「いつからあんたの女になったのよ」立ち上がり抗議するテスカ、その小さな肩に、指先まで刺青の入った手を置き「賭けの負債が5000を超えた瞬間から、お前は俺の女だ」テスカ、言い返そうとするが口ごもる。男は顔の刺青を非対称に歪め「片眼のコギトちゃん、なんなら男気出してお前が払ってくれてもいいんだぜ」「ヴィー、次に俺の事を片眼と呼んだらたたじゃあ済まさない」「お、いいねぇその好戦的なノリ、嫌いじゃないぜ」「止めてコギト、こいつの挑発に乗っちゃダメ。怒らせて勝負させる気よ。いつもの手なんだから」ヴィー、刺青の眼で睨み「テスカ、銭は返さない、余計な口を出す。テメェ邪魔だわ」ヴィーの眼から青い光、刺青伝いに電流となって走り、拳に行き着いた瞬間、裏拳でテスカの顔を殴打した。華奢な身体が吹っ飛び、床を滑る。
 「さ、お膳立ては済んだぜ、勝負だ。片眼の大将」
 
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