mixiユーザー(id:11487068)

2023年03月09日08:24

31 view

☆洋ちゃんの読観聴 No. 1591

☆洋ちゃんの読観聴 No. 1591      

青山文平 「やっと訪れた春に」        

時代小説の秀作である。

橋倉藩の近習目付を勤める長沢圭史と団藤匠は、
子どもの頃からの仲良しで共に67歳。この
年齢からすれば、とっくに隠居していいはず
なのだが、二人とも後継ぎがいない。

この二人は同じ役職。本来一人の役職に二人いる
のは、本家と分家から交代で藩主を出すという
橋倉藩特有の事情によるものだった。だが、
次期藩主の急逝を機に、百年以上続いた藩主交代
が終わりを迎える。これを機に、長らく二つの派閥に
割れていた藩がひとつになり、橋倉藩にもようやく
平和が訪れようとしていた。

加齢による身体の衰えを感じていた圭史は、
今なら、近習目付は一人でもなんとかなると、
致仕願を出す。その矢先、藩の重鎮が暗殺される。
いったいなぜなのか? 隠居した身でありながらも、
圭史は独自に探索をはじめる……。

時代小説でありながら謎解きのミステリーで
ありサスペンス調でもある。

鎌倉時代から幕末まで武士の世は長く続いたが、
戦国時代までと江戸時代とでは様相が異なると
僕は思う。徳川の時代においては、領地や政権を
めぐっての戦はもはやない。武士にとって大事
なのは、藩の存続と個人としての家の存続で
ある。このあたりのことは、今に生きる我々は
ピンとこない面があるが、人の生き方を縛る
重要なポイントである。これを著者はストーリー
展開の背景として丁寧に描いてくれているので、
ありがたい。

主人公の圭史は梅干しつくりが唯一の趣味だが、
この手入れの様子や、梅を含め季節の移り変わりや
風景について、美しい言葉を選んで描かれる。
(時代小説は、こうでなくっちゃね)

藤沢周平〜葉室麟の流れの中で青山文平こそが
今や最高峰の作家となっている。




0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2023年03月>
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 

最近の日記