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2020年10月31日11:35

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うっかり

 牛乳まみれの雑巾を水道場で何度も洗う。
 雑巾に恐る恐る鼻を近づける。
「おえー」
 何度洗っても臭い物は臭い。
 
 きーんこーんかーんこーん
 
 バケツの縁に雑巾を掛ける。手の平を嗅ぐとほのかな雑巾の残り――後で誰かに嗅がせてやろう。小さな悪戯心ポケットに小走りで教室へ。
 
 がらがら
 
 教室のドアを開ける
 椅子に座ったみんなが一斉にこちらを見てぎょっとしている。
(いけねっ、また隣のクラスに入っちゃった)
 月一回くらいのペースで間違えてしまう。僕はやっちゃった感溢れる笑顔で後ずさりする。踵踏んでた上履きが脱げる。慌ててしゃがんで履きなおす。そして立ち上がる――思わずバケツを落っことす。
 椅子に座っている子がみんな紐になっている。それは青や赤、黄の原色の色彩。それが纏わりつくように絡まっている。なんとなく人の形ではあるが人間には到底見えない。眼があるはずのところから紐が数本纏まって飛び出してだらんとぶら下がっている。紐、見た事もな質感と色合い、ロープでも毛糸でもビニール紐でもなく、なんだか輪郭がない色彩の筋みたいだ。
 教室全体が歪んでいる。壁に掛けられた時計?の針?というか紐が進むたびに、教室の歪みが変化する。かと思えばいきなり真っ直ぐにすべての角を角として取り戻す瞬間もあり――
 黒板?はケチャップのような色だ。質感もまんまケチャップ。
 先生?は床に這う一本の太い紐。それは色を溝の油膜のようにゆらゆらと七色に混ぜながら、這いつくばってもぞもぞしている。
 教室の後ろに置いてあるはずの水槽?の中で薄紫の紐の塊が泳いでいる。

 もーん
 
 という音が止まない。
 これはきっとおしゃべりしている声だ。紐人間の口の辺りが動くたび。そこから聞こえてくるもの。
「もーんもーん」
 紐先生?が動きを速め。
「ぼーん!」
 と唸った?いや怒鳴ったんだろう――怒っているのだろうか?
 僕は仕方なく――
「すいません。時空を間違えました」
 と言い残し、教室を出る。と、図画の時間にふざけてパレットの上でいろんな絵の具を混ぜ合わせた空。廊下もおんなじ色、太陽?丸く切り抜かれたようになっていて、そこだけは元世界とおんなじ青空だ。どうやったらあの空の下に戻れるんだ?
 僕は悲しくなって涙を流す。手の甲で拭うとそこには何本もの色とりどりの紐が付着していて――何か懐かしい香りがした。
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