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2020年10月31日10:24

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欲三編

【かねの編】

 壺を擦ると福の神が出てきた。
「お前の願いを3つ叶えてやろう」
 男は言った。
「金が欲しい」
「承知した」
 福の神が背中に背負った袋を開けると一枚の古銭が飛び出してきた。
 男は古銭を拾いしげしげと眺めてから言った。
「一枚?しかも古銭?違う違うこれじゃあない。つってもなんて説明したらいいかな……つまり、現代でも通用するお金――そうだな黄金がいいな。それも大量に欲しい」
 福の神は首を傾げ――。
「現代でも通用する?黄金の?金が欲しい?大量に?そら!」
 袋を開けると大量の貨幣が溢れ出て部屋一面を黄金色に変えた。
「ちょ、違ーう!確かに黄金色のお金だけど、これは5円玉つって!俺が欲しかったのはこれじゃねー!消してくれー」
 次の瞬間一瞬で部屋は空っぽになった。
「今ので3つだ。では」
「え?ちょ――」
 そのあといくら壺を擦ってみてもまぁ結果はご想像の通り。


【おんなの編】

 花瓶を拭くと女神が現れた。
「貴方の望みを1つ、何でも叶えてあげましょう」
「本当ですか?」
 見ればかなり美しい女神だ。
「じゃあ僕の彼女になってください」
「ないです」
「え?」
「ないない」
「いや、あるとかないじゃなくって願い事ですから叶えてくださいよ」
「無理です」
「ああ、やっぱり神様界の掟みたいなのがあるんですか?」
「いや、生理的に」
「え?」
「生理的に無理です」
「そんな……そんな拒否権みたいなのあるんですか?」
「はい、じゃあ他の願いを言ってください」
「いや、今のが無理ならもういいです」
「そういう訳にはいきません。こっちもノルマがあるんで、願い事を叶えるまで帰る訳にはいかないのです」
 男は考えた。
「じゃあ、願い事を言わなければ、いつまでも僕の傍にいるってことですよね?」
 女神は、この世のものとも思えぬ美しい顔を、地獄のような面相に変えて――
「そうなります」

 こうして暫く女神と暮らしたのだが、うっかりお願い事を言うと消えてしまうので、余り会話も弾まず、家事を手伝ってくれるわけでもなく、当然触れさせてもくれず、ただただ退屈そうな顔をして座っているだけなので、しまいに美しい顔にも飽きてしまい。男は言った。
「チェンジで」


【さけの編】

 骨董市で買った西洋の瓶、コルクの蓋を外すともくもくと魔人が現れた。
「お前の願いを一つ叶えてやろう」
「願い……そうだなぁ」
 男は大の酒好きだったので――
「いくら注いでも無くならない酒瓶が欲しい」
 と願った。
「良かろう。ではこの瓶を魔法の瓶に変えてやろう」
 と言い残し魔人は消え去った。
 男は大喜びで台所に走り、コップに瓶の中身を注ぎ一口――
「んあっぁ?何じゃこれ?」
 確かに酒のようだが、飲んだことのない味。正直口に合わない。甘すぎる。
 よくよく調べてみると、ミードと呼ばれるリトアニアの蜂蜜酒だった。
「いや、酒の種類のクセェー!」
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