河原に男がいる。河原といっても水無し河で、どこまで行っても丸こくて小さな石が地面を埋め尽くしているだけ。男と小石と時間、それだけがそこにある。
何もすることが無い。仕方がないので、男は石を積み始めた。できるだけ平たくて大きな石から始めて、徐々にその輪郭を小さくし、段々と積んでいく。
腰ほどの高さに積み、男は一満足して、深く息を吐いた。すると何処からともなく異形の影が現れて、男の傍らに立つ。異形の影、牛っぽい角、赤黒い肌、手には金棒、どうみても鬼だ。
怯えて縮こまる男と積まれた石の塔を交互に眺め、鬼は微笑み、そうして一言こう言った。
「イイネ」
からん……から、からカッシャん。鬼が石塔を蹴飛ばした。「ええー!」思わず男は叫んだ。鬼、何処へともなく消えていく。
「くそっ、また一からやり直しだ」
やり直す義務も必要もないのだが、男はそうした。それ以外にすることがない。石と時間以外何もないのだからここには。
暫くして、ようようさっきと同じような石塔が完成した。いや、さっきのよりは真っすぐだし、石の色のグラディーションが天辺に向けていい感じになっていて、男は自作の石塔に満足して大きく頷いた。その拍子、またどこからともなく異形の影、鬼だ。今度は薄ら青い肌をした鬼。にっこりと微笑み。親指をぐっと立て片目を瞑ると――
「イイネ!」
石塔を蹴飛ばす。そうして消える。
「くそっ、また一からやり直しだ」
男は石塔を作る。作り続けている。石と時間しかない世界で。男は生前、イイネの亡者だった。
そう、ここは『イイネ!地獄』
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