街灯の光域と闇の境目を狙い、竿を振るう。当たりはない。
学生の頃皆で行った夜釣り。飯盒でマカロニを炊いて、塩を振って食った。妙に旨かったなあれは。一人思い出す。
ルアーが闇に飲まれてゆく。
何だか魚ではなく、夜そのものを釣ろうとしているようだ。無論、そんなものを手繰り寄せる腕もなければ、タモもないわけだが。
誰かのラジカセからスタンドバイミーが流れていた。垂れ流しにされたベースラインが乱雑に防波堤に散らばってゆく。そいつが、干からびたフグを優しく撫で、海に落っこちるのを見送る、血走った寝ぼけ眼、10個くらい有ったかな。
聞こえる。あの時海に落ちたベースの音が、方々の海を巡って、足元の波に紛れ響くのが。
延々と続く伴奏。何かに向かって歩きだすとき、僕らの鼓膜は楽器のように震え、あのメロディーを奏でていた。
今もまだ。
そう、今もまだだ。
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