「思い出させてくれてありがとう」と僕が言った。
「忘れさせてくれてありがとう」と君が言う。
同じく過ごした時の中で、心も体も取り返しがつかぬほど絡め合ってきたけど、それぞれ違うやり方で、過去の痛みに向き合っていたんだな。
「忘れないよ」と僕が言った。
「忘れないよ」君が言う。
別れの理由を見失いそうになる。でもお互いが違う行き先を求めているから。
駆ける想いを握手に留め、もう一度「ありがとう」と言って、バスを見送った。君の匂いが冬のバス停にこだまする。
彼女と握手をしたのは、今のが初めてかもしれない。
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