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2007年12月12日17:19

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『ラヴィ・ド・ボエーム』

アキ・カウリスマキの『ラヴィ・ド・ボエーム』をやっと観る事ができました。
my mixi るき乃さんの同タイトルの日記(’07.8/31)の下で会話して以来、プッチーニの『ラ・ボエーム』とこの作品の比較には大変興味を持っておりました。
特に、カウリスマキが「プッチーニはアンリ・ミュルジェールの原作『放浪芸術家達の生活情景』を台無しにした」と発言し、「プッチーニーへの怒りを込めて」これを作った、と言っているからには、何処がそれ程違うのか、そそられずにはいません。

『ラ・ボエーム』については、今年の1/21、そして9/22にも私は触れています。また、1/9にはそれを基にしたミュージカル『レント』についても。
確かこの1/21の感想では、ミュルジェールの原作に対して、プッチーニが意志を以て手を入れた部分について、少ししたためています。それは、主人公ミミの性格です。
そして、そのミミの延長戦上にお蝶夫人という”特異な女性”がいる訳です。
プッチーニ好みの心優しき女性と言えるでしょう。この性格を浮き彫りする為に、ミミが娼婦であった事はプッチーニは伏せています。娼婦と言っても、現代のそれとは意味が違いますので注意が要ります。これについては、重複しますので、興味のある方は1/21の日記をご覧頂けたらありがたいと思います。
“心優しき女性”と書きましたが、言葉を換えれば”控えめ”、更に現代のフェミニスムの観点から言えば、”男にとって都合の良い女性”と言えない事もありません。

それは極論かもしれませんが、このプッチーニのミミの性格の改変は、『ラ・ボエーム』研究の中ではよく知られた事実で、原作からの変更点としてカリウスマキが怒りの感情迄抱いたとすれば、やはりこの点だろうと常識的には思う訳です。
しかし、カリウスマキの『ラヴィ・ド・ボエーム』を観たところ、ミミの人となりの描き方は、プッチーニとそれ程違いません。前にしゃしゃり出る事はありませんし、他人に自分の意見を主張するようなタイプの女性でもありません。
事前のオーソドックスな当ては、見事に外れてしまいました。

カウリスマキはこの作品で原作の何を復元させたかったのか、まあもう一度通して観てみよう、そう思い直してビデオを巻き戻した次第です。

さて、それで、前半を観終わる前には、その結論は得られました。

アンリ・ミュルジェールの原作は、タイトルにある通り、経済的に自立できない芸術家達の生活風景の描き出しに狙いがあります。それは数多くの面白おかしいエピソードが散りばめられた雑多な散文で、ドラマティスムを主眼としてはいません。
対して、プッチーニは、台本作家ジュゼッペ・ジャコーザとルイージ・イリッカに、この雑多な原作の中から、ミミとロドルフォの恋愛を切り出し、それを中心に据えたボエーム達のドラマティックな物語にするよう、要求したのです。
このように、創作意図から、2つの作品は、原作とオペラという関係にありながら、随分読後(視聴後)印象が異なります。

そして、アキ・カウリスマキは、この前者の、種々雑多な生活風景に時代性と面白さを感じたのでしょう。
カウリスマキの映画では、時代はもっと後代に設定されてはいるものの、半端な芸術家達の回りに起る事件や滑稽な生活を、時間をかけて描き出しています。オペラに比べると、メロドラマのウェイトはずっと低く、乾いた眼で物事を見ています。
対して、オペラは、生活エピソードも1幕を中心にかなりありますが、それらも常に悲劇の進展の材料になっています。そして、トーンは実にウェットです。

ただ、しかし、この差というのは、そんなに怒りを覚える程のものでしょうか。”プッチーニへの復讐”とは、少しオーバーに過ぎやしないでしょうかしら。(笑)
これが、女性の扱い、ひいては人権の問題であるならば、感情的な反感も理解できます。

もともと表現手段が異なりますから、表れるものも違って当然だという気もします。例えば、映画にはできても、散文的なオペラ等、想像しにくいところがあります。
そして、プッチーニとカウリスマキの資質の違い、これは大きい。カウリスマキの映画は常に淡々としていて、ドラマティスムとは対極にあると言っていいでしょう。彼は、感情を露わにする、泣き叫び、人格を破綻させる、こういう表現が嫌いな作家です。これもプッチーニとは全く違う嗜好です。

もうこれ以上言葉を弄する必要はないと思いますが、違う観点で言うと、カウリスマキの『ラヴィ・ド・ボエーム』の何処に感動を覚えたか、これは大事な鑑賞上のポイントです。
もし、ミミとロドルフォの最後に感動をした方ならば、あなたは、プッチーニのオペラをご覧になったらもっと大きな感動を覚えるでしょう。
滑稽な生活や人間の反応の面白さにこそ妙味がある、と感じられたならば、あなたは、プッチーニのオペラにはしらけてしまうかもしれません。
どちらでも、私は構わないと思います。それは、芸術価値の上下関係とは違う次元です。
ただ、何れにしても、プッチーニの『ラ・ボエーム』が歴史上稀代のヒットオペラである事、それは間違いのない事実です。

『ラヴィ・ド・ボエーム』
監督・脚本 アキ・カウリスマキ
撮影 ティモ・サルミネン
出演 マッティ・ペロンパー,イヴリヌ・ディディ他
受賞 '92 ベルリン映画祭国際批評家賞
 
写真は1.2が『ラヴィ・ド・ボエーム』から。
3は、カラヤン指揮の『ラ・ボエーム』DVD。ミミはミレッラ・フレーニ(ソプラノ)。
 
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