時は幕末の京。会津藩の高坂新左衛門(山口馬木也)は、藩命で長州藩の山形彦九郎(庄野崎謙)を斬るため、山中の寺の前で身構えていた。ところが雷鳴がとどろき、ふたりのところに落雷。
新左衛門が意識を取り戻すと、江戸の街並み。
いぶかしく思って歩を進めると、若い娘が不逞の輩に絡まれ、そこに現れた侍が男たちを斬って捨て、娘を助けている・・
自分も助けに行こうとした新左衛門は、そこへ現れた優子(沙倉ゆうな)に注意を受け、「どちらの事務所のかたですか?」と問われる。
なんと新左衛門は140年後にタイムスリップし、京都の時代劇撮影所にいたのである。
さっきのいざこざは時代劇の撮影中の芝居で、優子は助監督。
しかし新左衛門はわけがわからず、撮影所の中をさまよううち、頭を打って転倒。
気付いた優子によって病院に運ばれた。
病院を抜け出し、新左衛門は見覚えのある寺の前へ。
住職(福田善晴)と妻の節子(紅萬子)に助けられ、知らせを聞いた優子が駆けつける。
彼は「頭を打って記憶喪失になってしまった、大部屋俳優の男」と皆に誤解され、会津弁の昔風の喋り方も「それだけ役になりきってるんですね」と思われてしまう。
テレビに優子が助監督の時代劇ドラマが映るが、それは新左衛門が遭遇したあの芝居だ。
悪い奴をたたきのめす侍を、錦京太郎(田村ツトム)が演じている。
新左衛門はその勧善懲悪の時代劇を、涙を流して見ていた。
そして、「現代」で生きることになった彼は、殺陣師・関本(峰蘭太郎)のもとで、「時代劇の斬られ役」として生きていくことになる。
ところがある日、映画界のスター・風見恭一郎(冨家ノリマサ)が、10年ぶりに時代劇映画に主演すると発表。相手役に新左衛門が指名される。
なんと風見の本当の姿は山形彦九郎。
彼もあの落雷で撮影所へ、新左衛門よりも30年前にタイムスリップしていた。
そして時代劇の役者・風見恭一郎として芸能界で生きてきたのだった。
因縁のふたり。
しかし、新左衛門が忠義を誓った江戸幕府は140年前に滅びていた。
撮影のクライマックス、風見と新左衛門が対決するシーンで、
「真剣を使いたい」とふたりは申し出る。
優子は怪我を心配してやめさせようとするのだが・・
インディーズ作品ながら、評判を呼んで、シネコン上映までひろがったという映画である。
タイムスリップものは目新しくはないが、幕末の侍が、21世紀の時代劇撮影所にやってきて、そのまま「侍」としてお芝居をしてサバイバルする、というストーリーはコミカルでテンポがいい。
そして、製作者たちの「時代劇愛」あふれる映画となっているのだ。
「斬られ役」として有名だった、故・福本清三氏へのオマージュが冒頭にも出てくる。
いまは、もはや民放の地上波から、時代劇ドラマは姿を消してしまった。
わたしなど、祖父と同居していたから、子どもの頃から時代劇はいっしょによく見ていたもので、今でも大好きなんですが。
山口馬木也の、朴訥な、田舎侍ぶりがなかなかハマっています。
ラストシーンは、「こうして、時代劇は『ホンモノ』を知る人に受け継がれていくのだ」という暗示になっていて、うまい終わり方です。
まだまだ全国拡大公開中。こういう志ある映画っていいですね。
(11月19日、イオンシネマ大野城)
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