滝沢馬琴(役所広司)は、あらたな作品の構想を考えていた。
ときは300年前の安房の国。
里見家の当主・義実(小木茂光)は、城を攻められ苦戦。愛犬の八房に、「敵将の首を獲ってきたら、娘の伏姫を花嫁にする」と言うと、八房は見事、それを果たし、里見家は戦に勝つ。
しかし、伏姫(土屋太鳳)は、「八房は、人間の言うことが分かるのです」と、八房とともに城をあとにする。
敵将の愛妾・玉梓(栗山千明)は、殺される前、怨嗟の言葉を吐き、里見家を未来永劫呪ってやる、とのたまう。
里見家の臣下たちは、八房を捕えようとするが、逆に伏姫を撃ってしまう。
しかし、そのとき、伏姫の身体から、光り輝く八つの珠が空中に飛び出していく。
馬琴のもとへは葛飾北斎がやってきて「固いアタマのお前さんから、そういう面白い話がよく作り出せるもんだ」と言いつつ、サラサラッと、馬琴の聞かせた物語のシーンをいくつも描いてみせる。
その、物語を具現化するような画力の見事さに馬琴も驚嘆。
映画では、「虚」の「南総里見八犬伝」の世界と、「実」の馬琴やその家族をめぐる物語が交互に登場。
「仁義礼智忠信孝悌」が浮かび上がる不思議な珠を持って生まれた「八犬士」たち。そしていずれも牡丹の花の形のあざが、体のどこかにあった。
犬塚信乃(渡邊圭祐)は、名刀・村雨をだまし取られ、彼を慕う浜路(河合優実)も、崖下の川に転落させられてしまった。
人気戯作者の馬琴のもとへは、大名からもぜひ会って話をしたい、と申し出があるが、すげなく断り、妻・お百(寺島しのぶ)から叱責される始末。
息子の宗伯(磯村勇斗)は、医者をめざし、馬琴もお百も、どこかのお大名のお抱え医師になってくれまいかと望んでいた。
八犬士たちの物語は続く。やがて八人の犬士たちがそろい、八つの珠の魔力の威光でもって、いまだ里見家を呪い続ける、玉梓の怨霊に立ち向かう。
馬琴は、鶴屋南北(立川談春)から、「虚の物語などつじつまが合わない」などと言われるが、馬琴は「正義は必ず悪に勝つ」という物語を書きたい、と思うのだった。
宗伯は病に倒れ、見舞いに友人の渡辺崋山(大貫勇輔)もやってくるが、亡くなってしまった。悲嘆にくれる馬琴一家。
さらに馬琴は晩年、目を患い、執筆がかなわなくなる。
しかし、息子の妻・お路(黒木華)が、口述筆記を申し出る。お路は、文字はいろは・・ぐらいしか書けず、漢字はほとんど分からない。それでも必死に馬琴の語る物語を聞き取り、なんとか八犬伝を完成させようと苦闘する。
八犬士たちは、見事怨霊を仕留め、戦いに倒れた犬士たちも、不思議な珠の魔力でよみがえった。
馬琴は、お路の献身もあり、28年の歳月をかけて壮大な物語を書きあげたのだった。
当初、役所広司が「八犬伝」で主演、と聞いて、「八犬士のうちどの役をやるのかしら?」と思ったら、作者の滝沢馬琴役でした(;´∀`)。
頑固で強情、しかし、稀代の物語作者としての矜持と、創作者としての業を持った男を、中年から晩年の老境まで、演じ分ける役所広司は貫禄十分。
「八犬伝」の物語部分は、オリジナルの長さを考えると、駆け足になった感はあるが、「実」の馬琴やその家族や北斎らとのからみのエピソードもあるので、仕方ないかも。
それにしても八犬伝って、荒唐無稽だが、波乱万丈のファンタジーでもあるので、VFXを使った映像化にはうってつけかも。
馬琴先生もこれを見たら大喜び?
わたしの世代だと、小学生時代にNHKの人形劇「新・八犬伝」を見ていなかったヤツはいない!と断言できるほど、辻村ジュサブロー制作のあの人形劇は人気を博した。
丸2年、放映されていたと思うし、放映される毎日夕方6時半が楽しみだったなー。
おかげで、南総里見八犬伝のおおよそのストーリーは知ってるし。
人形劇の語りは坂本九。彼の「上を向いて歩こう」をリアルタイムでは知らないわたしにとっては、坂本九は、歌手、というより「新・八犬伝のおにいさん」というイメージだった。いまでも彼の軽妙なナレーションやテーマ音楽を思い出せる。
映画「八犬伝」は、そんな遠い記憶もよみがえらせてくれた。
(11月5日、イオンシネマ大野城)
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