中国・杭州の西湖畔の山の斜面に広がる広大な茶畑。
ここで働く人々は、山の神に安全を祈願して山に入り、茶を摘む。
中国では最高峰の「龍井茶」として知られているのだ。
タイホア(ジアン・チンチン)は、茶摘みの仕事で、ひとり息子ムーリェン(ウー・レイ)を育て上げた。
彼女の夫は10年前に出奔して行方知れずだ。
ムーリェンは大学まで出たのに、定職が見つからない。
茶摘みを取り仕切るチェン(チェン・ジェンビン)は、美しいタイホアに心惹かれている。
しかし、雨の夜にタイホアとチェンがこっそり会ったことはたちまち噂になり、チェンの母親が激怒。タイホアは茶畑を追い出される。
彼女は、茶摘み仲間の後輩女性に誘われ、「バタフライ社」の送迎バスに乗った。
その会社で、後輩の弟が働いているというのだ。
あたらしい生活に期待を膨らませるタイホア。
しかしバタフライ社は、「体にいい足裏シート」を販売する、というのが表向きだったが、大量に購入した会員がマネージャーになり、親親戚友人知人にさらに売りつけることで出世していくという、日本でいう典型的な「マルチ商法」の会社だった。
バタフライ社の研修は、洗脳そのもの。どんな手段を使ってでも「足裏シート」を買い、売り、自分のステージを上げると大金が舞い込むのだ、と思い込ませていた。
タイホアは、まるでそれに酔ったようにのめり込む。
実家を売って資金源にして購入、置き場がないほどの「足裏シート」の段ボール箱が部屋に積み上げられているのを見たムーリェンは衝撃を受ける。
タイホアは生活も派手に変貌し、厚化粧をほどこし、別人のようになっていた。
そしてもう、息子がこれは詐欺だ、マルチだ、と言っても聞き入れない。
苦悩したムーリェンは、窮余の策として、母のそばにいようと自分もバタフライ社に入社してしまう。
だが、やがて違法ビジネスが露呈して、警察の捜査が入った。
仲間のひとりは自殺し、タイホアの、信じていたものすべてが崩れ去った。
久しぶりに中国映画を見る。
ウー・レイは、日本で言えば林遣都みたいな感じの俳優さん。
ジァン・チンチンは、昔の夏川結衣のような雰囲気だ。
仏陀の十代弟子のひとり目蓮が、地獄に堕ちた母親を救う説話がもとになっているのだという。
神秘的な深い山、黙々と茶摘み労働にいそしむ女たち、それと対照的な、都会の喧騒と「ラクしてもうかる」話に群がる人々。
人間の心は弱く、もろい。
それを治癒できるのは、大昔からある大自然の営みや、湖畔の古刹である、というのが一つのテーマなのかもしれない。
ムーリェンは、古刹の寺人から、「あなたのお父さんを見た人を知っています」と、父の手がかりを得るのだ。
果たしてその再会がかなうのか、父の便りは新たな災厄なのか?
疑問を残したまま、物語は幕を閉じる。
それにしてもマルチ商法って、どの国も盛んなんだねー、とみょうな感心もしてしまう映画でした。
(10月10日、KBCシネマ)
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