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2024年06月28日11:20

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「オパールの炎」桐野夏生(中央公論新社)

<帯の内容紹介から>
1999年に日本でピルが承認される約三十年前に、ピル解禁と中絶の自由を訴える一人の女がいた。派手なパフォーマンスで一躍脚光を浴びるも、その激しいやり口から「はしたない」「ただのお騒がせ女」などと奇異の目で見られ、やがて世間から忘れ去られてしまうー。謎多き女をめぐる証言から、世の“理不尽”を抉りだす圧巻の傑作長篇!
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いつか世の中から「消えた」塙玲衣子(はなわ・れいこ)。
彼女が作った、ピル解禁を求めた「ピ解同(ピル解放同盟)」はピンクのヘルメットをかぶってデモをし、浮気をされた妻からの訴えで、浮気夫の会社に押しかけ、行状を赤裸々にぶちまけた。ついには参院選に出るも惨敗。はては宗教団体まで作ったりもしたが、いつしか玲衣子の名前は語られることがなくなってしまう。

本書は若い女性ライターが、玲衣子を知る、運動の賛同者、彼女を取材していた記者、玲衣子の親族、「浮気男」と糾弾され、人生を壊された男の家族、参院選に出馬した女性、「最後に玲衣子と接触した目撃者」の女性などを取材し語ってもらう、という形で物語が進む。

そのため小説、というより聞き書きのノンフィクションのような感じなのだ。
「早すぎたフェミニスト」である塙玲衣子。
道化のようにして行動しなければならなかった運動の果て、彼女は「日本の男社会」の中ではその存在を抹殺された。

さて、このあらすじを読んで、わたしと同世代以上のかたならば、玲衣子のモデルは誰だか、すぐにわかるだろう。
「中ピ連」を率いていた、榎美沙子である。

小学生のわたしにとっては「へんなことやってるおばさん」だった。
当時のマスコミは完全に「色物」扱い。彼女たちが訴えていた「女性の身体は女性自身のもの」といった女性解放運動は、まったく理解されていなかったと言ってもいい。

榎美沙子は1945年生まれ、子どもの頃から地元・徳島では優秀で京大薬学部出身。
たしかに「中ピ連」のやり方は過激すぎて賛同は得にくかったろう。
しかし、運動をつぶされた最大の理由は「男を怒らせたから」ではないか。
男性、というそれだけの既得権を持つ連中は「女が偉そうに、男社会のことに文句を言うな」といまいましかったのである。

保守的な社会の底の闇は深い。
物語では、玲衣子たちが、さる大物財界人のスキャンダルを嗅ぎつけ、糾弾のデモンストレーションを予定していたがために、彼らに生命の危機を感じるほどの脅迫を逆に受けたのでは? とにおわせている。
たぶん、実際の榎美沙子たちもそうだったのではと、思わざるを得ない。

物語では、玲衣子は、極貧の中で孤独死したのでは・・?という推測であるが、現実の榎美沙子も、ウィキペディアなどでは没年などの表記はない。
ただ、「生死不明」でまったく消息が分からないのが現実のようだ。

この物語を、男社会で討ち死にしたフェミニストの悲劇、と見るか、バカな女の成れの果て、と見るか、男女の読者で違うだろう。
わたしは榎さんに、こうしてふたたび光を当ててくれた、桐野夏生氏に拍手を送りたいぐらいだ。
本書は「婦人公論」の連載だが、終盤、「婦人公論あてに、玲衣子の消息を知っている」と読者から連絡があって、それを取材する、というスタイルになっている。
本当に「モデルになってる榎美沙子のことを知ってるよ」と、読者から投稿があったのかもしれない。そういう虚実のあわいでの物語展開もスリリングである。
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