作家・佐藤愛子氏の珠玉、ではない言いたい放題のエッセイ「九十歳。何がめでたい」を映像化したコメディ。
佐藤愛子(草笛光子)は、「最後の仕事」として長編小説を書きあげた後は、作家業は引退。九十歳を迎え、「九十歳とはおめでたいですねえ」という周囲に「何がめでたい!?」と毒づいていたが、引退生活はどこかヒマをもてあましてしまう。
同居する娘の響子(真矢ミキ)も孫の桃子(藤間爽子)も、そんな愛子がどこか心配だ。
出版社のヤリ手編集者・吉川(唐沢寿明)は、仕事はできるが、大声で怒鳴る、独善的という典型的な昭和のタイプの男。
部下へのパワハラを認定され、経済雑誌編集室から文芸部へ異動。何もしなくていい、と言われる。
家庭をかえりみない仕事人間のため、妻・万里子(木村多江)にも娘・美優(中島瑠菜)にも去られてしまった。
文芸部の水野(片岡千之助)が、佐藤愛子さんに連載エッセイを書いてもらいましょう、と提案して、佐藤邸に出向くが、愛子の返事は「書きません!」とけんもほろろ。
あっさりあきらめて企画を引っ込める水野を見て、吉川はむくむくと闘争心が沸き、愛子を訪問。
「書・か・な・い! 書きたくない!」とドスのきいた声で断るものの、吉川はめげない男で、何度も日参。
愛子の散歩にも付き合う。
そのとき見た未来を担う保育園児たちの笑顔に、愛子は、新聞の「保育園建設で子どもの声がうるさくなるのがいやだ」という記事が浮かび、「子どもの声がうるさいとは何事だ!」と怒りがむくむく。
ついにエッセイの連載を書いてもらうことに承諾してもらった吉川。
愛子は「わたしは戦争を体験し、空襲警報の後の、息をひそめた人々の沈黙を知っている。うるさいぐらいの多様な声が聞こえるのは平和な証拠だ」とくぎを刺す。
毒舌ながらズバズバ社会に切り込む愛子のエッセイは好評を博す。
ついには単行本化されると、ベストセラーに。
編集者としては得意顔の吉川だったが、実生活では、万里子からは離婚したいと言ってくる。
そんな中、舞踏を習っている美優がコンクールに出場。
吉川は、愛子ともに、ひっそりと、娘の晴れ舞台を見守る。
そこには、妻の万里子も見に来ていた。
映画の冒頭「草笛光子生誕90年記念映画」と出る。
草笛光子さんも90歳なのか・・しかし、ほんとうに映画の中、お元気でおきれいだ。
監督は前田哲。やはり草笛光子が出演した「老後の資金がありません!」がすごく面白かったが、あれと同様の楽しく笑えるコメディである(もっとも原作者の佐藤愛子氏からは「エッセイなんか、映画になりませんよ!」と言われてたそうなのだが)。
編集者役の唐沢寿明が、ある意味新境地?
そう言われなければ、唐沢寿明ってわからない、もじゃもじゃ頭で眼鏡かけた、うるさいおっさん役です。
出演はほかに、石田ひかり、オダギリジョー(佐藤家に、テレビの工事でやってくる電気屋さん役)、三谷幸喜(タクシー運転手役)、清水ミチコら。
原作の「九十歳。なにがめでたい」が単行本ででたとき、わたしは義母にプレゼントしたなあ。
実際の佐藤愛子氏は、九十歳どころか、百歳を超えた。大正生まれである。
たしか以前日経新聞の「私の履歴書」の連載で「自分が昔の生活の話をすると、水道がなくて水を汲んできた、とかガスがなかったから炭をおこして食べ物を焼いた、と言うだけでご苦労されたんですね、と言われる。そんなの当たり前だった。『苦労』もずいぶん安っぽくなったものである」とチクリと書いていたのを覚えている。
それにしても佐藤氏もだが、瀬戸内寂聴、宇野千代、宮尾登美子などなど女性作家には長寿が多い印象です。
(6月25日、イオンシネマ大野城)
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