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2024年04月08日10:14

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佐藤幹夫個人編集「飢餓同盟・第58巻・2024年春号」を読んで 下



照る日曇る日 第2033回

後半に入ると、「やまゆり事件はなぜ起きたのか」というRKB毎日の神戸金史さんの、植松聖との面会の再現記録が刺激的でしたね。

植松が施設職員として無知であり、まともに仕事が出来ていなかったことがあからさまにされている。彼はそこから凶行に走っていったのでしょう。

私の息子が利用している施設も、慢性的な人手不足で、今や障害福祉に無関心な人でも、もっというと、植松のような「心失者」でも、希望すればやすやすと採用されることでしょう。第2、第3の植松事件は、いつどこの施設で起こってもおかしくないが、考えるだに恐ろしいことなので、できるだけ考えないようにしています。

「福祉にとって「美」とは何か」と題する村瀬学さんの問題提起も、いままで誰からも聞いたことがないような斬新な切り口でした。

福祉の現場における「倫理」と「美学」の対立が、植松聖や旧約聖書のアブラハム、オウム真理教事件、「ノートルダムの背むし男」、ジャニーズ問題、「山椒大夫」、芥川陽受賞作の「ハッチバック」を経て、最後に「パレスチナ・イスラエル問題」にまで接続していく道行きは、さながら世界樹が力強く繁茂していくような壮観でした。

さらなるメーンエベントは、話題の映画「月」とその原作をめぐる多くの感想や論考ですが、私は原作こそ速読したけれど、登場人物のリアルがいつまで経っても立ち上がらず、その代わりに、作者の生硬な主張だけが浮き上がってくることに失望。肝心の映画は、未見なので、ここではノーコメントとさせて頂きたいと思います。

それから本書全体を通じて印象的だったのは、佐藤和彩さんが取り上げられた竹籠、竹箆など、数々の民藝品に宿る列島の民草たちの「生きた暮らしの息吹」でした。

これらの逸品をスクープした白黒写真を見つめながら、私の身の回りには、かくも満たされた機能性と美しさを兼ね備えた芸術的日常品が、悲しいかな決定的に欠如していると痛感せざるを得ませんでした。

なお賢明なる読者の皆さんはお気づきになったかと思いますが、この「飢餓陣営」には、要所要所で2009年に54歳の若さで急逝された、かがくいひろしさんのイラストレーションがあしらわれています。

昨年の6月にブロンズ新社から刊行された「かがくいひろしの世界」を一読すると、「飢餓陣営」の主幹の佐藤幹夫さんが、かがくい氏とは教員時代からの「掛け値なしの盟友」だったと自ら記されていたので、なるほどそうだったのか、と哀しく得心した次第でした。

その他、添田馨さんの刺激的な大江健三郎論なども必読の連載ですが、最後の最後に、全体を通じて私が最も寛ろいで味読し、ある種の懐かしさを覚えた文章は、木村和史さんの連載「家をつくる」であったことを申し添えて、2日間にまたがる拙い感想文を終わりたいと思います。

 *「飢餓陣営」最新58号では私の特集も組んで頂きました。
  「全集」以後の新作詩、さとう三千魚さん、水島英巳さん、佐藤幹夫編集長のエッセ
  イを含めた16頁の「佐々木眞劇場」をどうぞお楽しみください。

 *なお本誌は郵便振替00160−4−184978飢餓陣営発行所 あてに1850円(1500円
  +税150円+送料200円)を、お送りいただけますとすぐに届きます。

      見つめればぐっと膨らむチューリップ 蝶人

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