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2023年06月07日11:48

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映画「怪物」(ややネタバレあり)

早織(安藤サクラ)は、夫と死別したシングルマザー。
クリーニング店で働きながら、小5のひとり息子・ミナト(黒川想矢)を育てている。

そのミナトの様子が最近おかしい。
怪我をして帰って来たり、「豚の脳を移植したら、人間も豚になるの?」などと言い出す。
心配になった早織がミナトを問いただすと、担任の保利先生(永山瑛太)に暴力を振るわれたと言う。「お前は豚の脳」と言われたとも。

怒った早織は学校に出向いて抗議。
しかし、学校は逃げ腰で、保利の受け答えも要領を得ず、何より、校長(田中裕子)が、死んだような目をして、まともな対応をしてくれない。

早織は再三、学校の校長室に行くが、のれんに腕押しといった態度だ。
学校職員は「校長先生はお孫さんが事故死してショックから抜け切れてないんです」と言う。

そのうち、このことがマスコミに知れ、週刊誌には「暴力教師」と、保利のことが書き立てられることに。
担任は、保利から別の教師に交代となる。

映画の中のフェイズが変わる。
保利先生は恋人(高畑充希)と仲良く買い物。
新しく赴任した小学校で、いつもどおりの授業をしていた。
ある日、教室で、ミナトが激しく暴れだしてるところを見つけ、制止しようとして、腕がミナトの顔面を直撃してしまう。保利はすぐにミナトに謝るのだが・・

ミナトの母親が抗議に来たと聞き、彼はちゃんと説明しようとするのだが、学校の職員たちに押しとどめられ、なぜかあらかじめ学校側の作った「謝罪文」を棒読みする羽目に。
保利の弁明は早織にも学校側にもミナトにも届かない。

さらに、別のフェイズ。
ミナトと同じクラスのヨリ(柊木陽太)は、小柄でちょっと幼く、女の子っぽく見える男の子。
そのためか、クラスでもいじめの対象になっていた。
ミナトはなんとなくヨリを遠巻きにしていたのだが、くだらないいじめをクラスメートが繰り返すのに耐えかね、逆に自分が教室で騒ぎを起こす。
いじめはそのせいでいったんやむが、保利先生が駆けつけて、ミナトを制止。
しかし保利先生は、ヨリへのいじめ現場は見ていない。

ミナトはなんとなくヨリと親しくなっていく。
裏山には、電車の古い車両が放置されていて「秘密基地」にしてふたりで遊ぶ。
しかし、学校でクラスメートから仲のいいことをからかわれると、逆にヨリを振り払うように、ミナトはヨリを痛めつけてしまう。

ヨリは、父親(中村獅童)とふたりで暮らしていたが、強圧的な父に、ヨリはおびえて暮らしていた。

校長の孫は、校長の夫、つまりおじいちゃんの運転するクルマに轢かれて亡くなっていた。
逮捕された夫の面会に行く校長。
しかし「実は運転していたのは校長だ。校長と言う立場上、旦那さんが身代わりになったのだ」という噂があった。

ヨリから、転校しておばあちゃんと暮らすことになる、と聞かされるミナト。
嵐が街を襲った日、早織はいなくなったミナトを案じ、山へさがしに行く。
保利も、ヨリとミナトのことが心配で、暴風雨の中、早織と一緒に山に入るのだが・・


この映画を見ながら、黒澤明監督の「羅生門」を思い出した人は多かろう。
あれも、「殺人事件」にかかわった複数の人間のそれぞれの視点からの「真実」が語られていく趣向だった。

保利先生は暴力教師なのか、否、本当は気のいい先生なのか、学校は校長の「事件」を隠蔽したのか、さらなる騒動を恐れて、保利先生を犠牲にしたのか??

立場によって、見る人によって、「真実」はこうも違ってくる。

また、ミナトの行動にしても、ヨリをかばいたいけど、それをからかわれ、自分までいじめの標的になることを恐れて、逆にヨリをいじめるようなことをしてしまう、そういった子どもの世界独特の息苦しさが、実によく描かれていたと思う。

カンヌ映画祭で坂元裕二は脚本賞を受賞。
物語を繰り返して、別視点からではまったく別の世界が見えてくる妙がある。

とはいえ、これは見る人によって、いろんな見方がありそう。
わたしは、保利先生はほんとにクビになってしまったのか?校長先生はほんとうに孫を轢いたのか?そのあたりはやはりよくわからなかった(校長が「わたしは嘘をついています」と、ミナトに言うセリフがある)。

是枝監督は相変わらず、子役の使い方がうまい。
黒川想矢は、「誰も知らない」に主演した時の柳楽優弥を思わせる。

映画の冒頭から、大きな湖のある街なみが映し出されるが、諏訪湖のほとりでロケしたようだ。
この湖のほとり、というビジュアルは、なんともいえない物語性を付与しているように思えた。

そして、何より、坂本龍一のピアノ曲が心地よくひびき、美しくも悲しい余韻を残す。
監督・是枝裕和、脚本・坂元裕二、音楽・坂本龍一、のクレジットのあと
「坂本龍一さんのご冥福をお祈りします」と文字が出る。


この日映画を見たのは、福岡市の商業施設「ソラリアステージ」の7階にある映画館。
ここはもとは「ソラリアシネマ」という名称で、1989年、バブルの真っ盛りにオープン。
わたしの勤務先の会社のそばでもあったので、仕事帰りにもよく行ったものだ。
「レインマン」とか「悲情城市」なんかもここで見た。
しかし、わたしが福岡を離れている間に、ここの映画館は経営元が変わったようで、いまはTOHOシネマズの運営になっている。もともとはすぐ近くにTOHOシネマズの映画館が別途あったのだが、そちらは、なくなってしまっていた。
(6月3日、TOHOシネマズ天神・ソラリア館)
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