1980年の暮れ、イギリスの海辺の街・マーゲイト。
海岸そばに建つ映画館「エンパイア劇場」で、マネージャーとしてヒラリー(オリビア・コールマン)は働いていた。
支配人のエリス(コリン・ファース)とは男女の関係にあったが、性欲のはけ口にされていることにヒラリーは嫌悪感を覚えながら、勤務を続けていた。
そんな劇場に新しくスタッフとして入ったのは黒人男性のスティーヴン(マイケル・ウォード)。彼の母親(ターニャ・ムーゲィ)が看護師として中米からイギリスに渡ってきたのだった。
大学で建築を勉強したかったスティーヴンは、不合格になったため、映画館で働くことに。
映画館の上階は使われなくなっており、そこにヒラリーから入らせてもらったスティーヴンは、翼が折れた鳩を手当てする。
そんな彼を見て、ヒラリーは次第に心惹かれていく。
1981年を祝う新年、ヒラリーはスティーヴンと映画館のビルの屋上で、花火を眺めるのだった。
しかしある日、ヒラリーは海岸を歩いていたスティーヴンが、地元の若者に「バナナがお似合い」「国へ帰れ」と罵声を浴びせられているのを目撃して、衝撃を受ける。
だが、映画館の他のスタッフは、スティーヴンに分け隔てなく接し、休憩時間には音楽の話で盛り上がる。
スティーヴンと交際を始めたヒラリーは、ある日ふたりでビーチへバスに乗って遠出する。しかしささいなことでヒラリーは気分を害し、スティーヴンは必死になだめるが、彼女は以前にもメンタル面で不安を抱え、入院したことがあったのだ。
性的関係を強要しようとするエリスをヒラリーが拒むと、彼はヒラリーに突如残業を言いつける。明らかなセクハラ、パワハラだった。
映画館では話題作「炎のランナー」のプレミア上映会を開くことが決まり、エリスは上機嫌だ。
その日、市長や街のセレブを招待し、エリスの挨拶のあと上映のはずが、突然、ヒラリーが壇上に登り、予定にない挨拶をして詩を朗読し始める。
エリスは、劇場の外に出ていくヒラリーを追いかけ糾すのだが、何事かと顔を出したエリス夫人に、「あなたの夫の行状」をブチまける。
それからしばらく、ヒラリーは劇場の仕事を休むことに。
スティーヴンは彼女を心配しながら、劇場では、映写技師のノーマン(トビー・ジョーンズ)に、フィルムの上映の仕方をひそかに教えてもらっていた。
ヒラリーが仕事に復帰してから、今度は悲劇が。
サッチャー政権下、失業した若者たちが「仕事がないのは移民のせいだ」と、騒ぎ出し、スティーヴンのいる劇場も標的に。
入り口のガラスを割ってなだれ込んできた彼らはスティーヴンに暴力をふるい、瀕死の重傷を負わせる。
病院に駆けつけたヒラリーは、そこで黒人の看護師に会う。スティーヴンの母親だった。
彼女はヒラリーを見てすぐ「ビーチに一緒に行った人ね」と声をかけるのだった。
「映画」や「映画館」をテーマにした映画は多い。
有名な所では「ニュー・シネマ・パラダイス」だが、「エンパイア・オブ・ライト」も同様。
映画館で働く人に囲まれて、スティーヴンもヒラリーも心を通わせていく。
しかし、イギリスであんなにひどい人種差別事件があったとは、わたしには衝撃でもあった。
ヒラリーとスティーヴンは、人種の関係なく、思いやれる人間関係が描かれる。
また、仕事するばかりで劇場にいるのにここで映画を見たことがない、というヒラリーのために、ノーマンが「チャンス」(ピーター・セラーズ主演・1979年米映画)を掛けてくれるところは、じんわりとする。
ラストでは、スティーヴンが大学入学を実現し、それを応援して見送るヒラリーの姿。
オリビア・コールマンとマイケル・ウォードの好演が、この映画を心安らぐものにしている。
(2月25日、TOHOシネマズ梅田)
ログインしてコメントを確認・投稿する