午前十時の映画祭にて「家族の肖像」観ました。
長いこと敬遠してた作品ですが、いやー、観てよかったですよ。何コレ、面白いじゃないですか!
独居高齢者の人生の黄昏時に訪れた最後の光芒と、消え去っていくものへの哀惜が色濃く描かれた、素晴らしい作品でした。
数人の使用人だけに囲まれて暮らす老美術教授のもとにズカズカと押し掛けてあれよあれよと言う間に(そして妙に段取り良く)彼の生活を浸食して行く「まれびと」たち。その横柄さに観ているこちらは教授同様、うぜえな、と思っちゃうんですが、その中のひとりのコンラッドという青年が意外に教養ある人物であったことから、教授の態度が少しずつやわらかくなっていきます。
興味深いのはコンラッドが60年代後半の学生運動崩れで、フランスでもドイツでもお尋ね者になってるという設定。
ジェームズ・コバーン主演のアクション「スカイ・ライダーズ」に登場する誘拐犯一派も実は同じ運動家崩れだったんですよね。こちらは「世の中を変えたきゃ権力者以上の暴力に訴えるしかない」と行動をシフトしていますが、コンラッドはその逆。ニヒリストみたいになって、今じゃ実業家の伯爵の奥様に愛人として飼われている身。
日本にも案外こういう人、いたんじゃないかなあ。
ラスト近くでは教授と侵入者(?)たちが食卓を囲み、疑似家族のような姿を呈するのですが、やがてそこから激烈なディスカッション・ドラマに移行し、互いの本音が互いの口から次々と暴かれる息詰まる展開に。
なんだか大島渚とコスタ・ガブラスの映画がごっちゃになったような迫力に、圧倒されましたね。伯爵夫人の「実業家なんてみんな右翼よ! 左翼の実業家なんて見た事ないわ!」という台詞にはつい笑ってしまいましたが。
最後に訪れる残酷で悲しい別れにいたるまで、一瞬たりとも眼を離せない濃密なドラマに、ひたすら圧倒される121分でした。
でもこれ、仮に公開当時に観ていても、半分も理解できなかっただろうなあ。
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