1961年のイギリス。
ニューカッスルに住む60歳のケンプトン・バントン(ジム・ブロードベント)は、国営放送BBCの受信料支払いの、年金生活者への免除を訴える運動をしていた。
そんな折、ロンドン・ナショナル・ギャラリーがゴヤの「ウェリントン公爵」を14万ポンドで購入。
この絵の人物はワーテルローの戦いでナポレオンを破った軍人。イギリスの救世主ゆえ、イギリスにあるべきと、破格の高値で買ったのだ。
バントンはこれに憤慨。そのお金を、自分が主張する年金生活者の受信料代に充てられるではないか!
ロンドンに出掛けた彼は夜、ナショナルギャラリーのトイレに忍び込み、警備が手薄な早朝に「ウェリントン公爵」を盗み出した。
絵がなくなっていることが判明し、イギリス中は大騒ぎ。
テレビでは「犯人は特殊部隊にいた隊員でしょう」「おおがかりな国際マフィアの仕業です」と犯人をめぐって議論が。
だれも老いたタクシー運転手だなどと夢にも思わない。
しかし客とのおしゃべりが過ぎるとバントンはタクシー運転手を解雇され、パン工場で働くが、パキスタン移民の青年に、工場の主任が差別的な言葉を吐くのを見て抗議、またクビになってしまう。
盗難名画が自宅の洋服ダンスの奥に隠されているのを知るのはバントンと息子のジャッキー(フィオン・ホワイトヘッド)だけ。
ところが妻のドロシー(ヘレン・ミレン)が知るところとなり、一家は大騒ぎに。
バントンは「犯行声明」を出すことにし、労働者が購読層の「デイリー・ミラー」に、真実だと分かるよう、絵の裏面に貼られたタグをはいで同封、名画を人質に、購入代金で受信料免除にするよう訴える。
だが、ジャッキーの交際相手に、「ウェリントン公爵」を秘匿していることがバレたため、問題がややこしくなる。彼女が口外するかもしれない。
結局、今なら罪が軽くなるかも、と絵を紙に包んでバントンはナショナルギャラリーに「返還」へ。
その場で逮捕されるバントン。裁判にかけられることになった。
重罪になるのでは、と妻のドロシーはおびえるが、弁護士は「バントンは自分の利益のためにやったのではない。無罪だ」と主張。
陪審員たちは絵画窃盗については、無罪判決を下し、けっきょくバントンは「額縁の窃盗」(絵だけをナショナルギャラリーに返却した)の罪で3カ月の懲役が下された。
しかし、後日談があった。本当の窃盗犯は実はバンドンではなく・・・??
この映画、実話をもとにしているそうだ。
名画の盗難事件は「モナリザ」とかフェルメールの「合奏」とか、古今東西、けっこう多いが、この事件は、わたしは知らなかった。
公共放送の受信料支払い拒否をバントンがやっていて、どこかの国の変な政党を思い出します(;´∀`)。
映画全体、悲壮感がなく、コメディタッチで進む。法廷でも、バントンは人を食ったような答弁で傍聴席を笑わせてしまう。
また、バントンが、交通事故で娘を失った悲しさをずっと抱えていて、仕事の傍ら、シェイクスピアのような戯曲を書く、とタイプライターに向かっているのもイギリスらしいところ。
ところで、わたしの実家でテレビを買ったのは東京五輪の年の1964年。
イギリスでは、やっぱりテレビの普及は日本より早い?
ゴヤと言えば、わたしがはじめて海外旅行に行った先がスペインで、プラド美術館で数々のゴヤの名画を見て感銘を受け、画集も買い、堀田善衛によるゴヤの評伝も読んだ。
プラド美術館は日本ほどうるさくなく、おおぜいの画学生が名画の前で模写してたし、写真撮影もOKと言われ、ゴヤの有名な「裸のマハ」の前で撮った写真も残っている。
ドロシー役のヘレン・ミレンは好きな女優さん。「クイーン」ではエリザベス2世を演じていました。
(3月4日、TOHOシネマズ梅田)
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