ドキュメンタリー映画「香川1区」を見てきたら、友人が前作の「なぜ君は総理大臣になれないのか」が、ミニシアターでアンコール上映されていますよ、と教えてくださり、早速見に行ってきた。
監督の大島新氏の奥様が、小川淳也氏とは高校の同級生。そんな縁から小川氏に興味を持った大島氏はカメラを回し始めた。
地方の県立高校から東大、そして中央官庁の官僚になった、といえば同級生の間でも有名人だったろう。
小川淳也氏は撮影当時はまだ32歳。学生のようにういういしい。
総務省に入庁したものの、霞が関での仕事には限界を感じ、政治家を志す。
娘二人はまだ幼く、選挙運動の手伝いをする母親(小川氏の妻)としばらく離れることになり泣き出す。
だがさいしょの選挙(当時の民主党から出馬)ではあえなく落選。
それから2016年の総選挙後まで、カメラは小川氏を追い続ける。
「国民の為に尽くす、ということならだれにも負けない自信がある」と熱く語る小川氏。
「バラ色未来を語るだけでは駄目で、日本の財政、少子高齢化を見据えて、これぐらいの負担が必要です、と政治家は頭を下げないといけないんです」。
そして彼の両親も「そういうことをちゃんと言えるのは、淳也ぐらいじゃないかと思う」。実家は美容院経営だ。いわば町のパーマ屋さん。
2005年に初当選(比例復活)、そして政権交代選挙だった2009年に初の選挙区当選。
だが2012年にはまたも落選して比例での復活。
党内ではやはり比例復活組は格下に見られ、発言権も小さい。
そして「党利、党益をまず前に出さないといけないけど、それを優先すると、自分のやりたいことができない」とジレンマを抱える。
民主党、民進党と所属政党名が変わり、2016年、突如、「希望の党」との合流が発表され、前原代表の側近だった小川氏は、希望の党から衆院選出馬。
香川1区でのライバルは、自民党の平井卓也氏。
3世政治家、地元のメディア「四国新聞」「西日本放送」のオーナー一族である。
地盤、看板、カバンがすべてそろっている。
無所属からの出馬、ということも考えたが悩んだ末に、希望の党からとなった。
だが、従来の支持者からも批判が相次ぎ、商店街で小川氏が女性に握手を求めると、
「立憲民主党からじゃないんだ・・」とすげなく手をひっこめられた。
のぼりを立てた自転車で選挙区を走り回るスタイルは、毎回同じ。
しかし、いくぶん有権者の反応がうすい。
娘二人は中学生ぐらいから選挙の手伝いを始めた。
今回の選挙ではすっかり大人になっている。
「小学生の頃、お父さんの選挙の看板が学校のそばにバーン!って建てられて・・あれがすごくいやだった」と思い出を語る。
大島監督が「自分も政治家になりたい、とは思わない?」とたずねると、姉妹そろって「それはないです! 政治家の妻はもっとない!ない!」。
それはとりもなおさず、選挙のたびごとの、両親の苦労を見ているからだろう。
大島監督は、実直すぎる小川氏を見ながら「実は彼は、政治家に向いていないんじゃないだろうか?」と撮影しながら思い始める。
両親も「選挙での苦労も見てるし・・もう、政治家じゃなくて、大学教授とか、そっちの仕事のほうがいいんじゃないか、って思ったりします」と率直に悩みを打ち明ける。
香川1区の開票は日付が変わっても当確が出ない。小川氏と平井氏の大接戦だ。
しかし夜中1時近くになって平井氏に当確が打たれた。
沈痛な面持ちの選対事務所。小川氏は深々と支持者たちに頭を下げた。
その票差はわずか2千票ちょっと。
白票が5千票近くあったという。
おそらく、小川氏が希望の党からの出馬となり、従来の民主党、民進党の支持者が「投票先をなくした」と失望したのではないか。
小川氏は、「たらればですけど・・・無所属からの出馬だったら、あるいは・・」と悔しがる。
それでもなんとか比例復活は果たせたのだが。
小川氏は大島氏に語る。
「権力を何としても取りたい、なにがなんでも上に立ちたい、そういった野望に僕は欠けてるんですよ」。
その手の「野望」を持つのが「プロの政治家」なのだろう。
ならば我々は野望は持たねども、誠実さと真剣さは誰より持っている、小川氏のような人物こそあえて、「アマチュア政治家」に甘んじてもらいたい。
映画はここ10数年の日本の政治のおさらいにもなった。
民進党なんて党があったよね、と懐かしいような、悲しくなるようなそんな気持ちにもさせられた。
小川氏はずっと対峙していた安倍政権についても、
「安倍さんって『右翼』なんですよ。でも安倍さんがガシっといるんで、もっと右の連中が出てこれない。そして働き方改革とか、一見リベラルな政策をだしている、右から中道まで幅広くカバーするのが、強みになってると思う」。
そして「僕は枝野さんほど左じゃないし、玉木(雄一郎)さんほど右じゃない。ちょうど真ん中のいいバランスだと思うんですけどね」。
その玉木氏は国民民主党代表になった。
ちなみに玉木氏は、小川氏の高校の2年先輩、東大、官僚を経て政治家というコースも一緒だ。
この映画の続きは、その前日に見た「香川1区」の通り。
昨年の総選挙で、小川氏は平井氏に2万票差をつけて選挙区当選を果たしている。
大島氏は「なぜ君は・・」を撮ることによって、日本政治を観客に問いたい、と語っている。
小川淳也氏が、タイトルに反して、総理大臣になる日が来たら・・きっと日本社会ももう少し変わっているんだろうか。
(1月25日、シアターセブン)
ログインしてコメントを確認・投稿する