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2022年01月12日16:30

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映画「偶然と想像」(けっこうネタバレあり)

サブタイトルに「濱口竜介短編集」と銘打ってるように、短編小説のような3つのオムニバス映画。

第1話 魔法
モデルの芽衣子(古川琴音)は、撮影のあと、親友でヘアメイクのつぐみ(玄理)といっしょにタクシーで帰宅。
クルマの中でつぐみは、テンション高く、最近知り合った男性の話をはじめた。
初対面なのにすごく気が合う、気が付くと半日以上、子どもの頃の思い出からずっと話続けていた。まるで魔法にかかったような体験だった。でもまだ男女の仲ではないんだけど・・
と幸せいっぱいの表情。その男性は、元カノの浮気が原因で別れて2年になるのだという。
つぐみの「恋バナ」を芽衣子も楽しそうに聞いていたが、つぐみが下車した後、運転手に「今の道を戻って下さい」。
そして向かったこぎれいな都心のオフィス。
そこにいた男・カズ(中島歩)こそが、つぐみの「魔法にかかった相手」であり、実は芽衣子の元恋人だったのだ。
つぐみと付き合ってるんだって、と問い詰め、カズは出ていけ、と声を荒げる。
しかし、口論をぶつけ合ううち、芽衣子は「カズを傷付けることでわたしも傷ついた」と言い、ふたりはもう終わったはずなのに、抱擁してしまう。それを部下の女性に見られ、芽衣子はオフィスから逃げ出す。
後日、カフェで芽衣子とつぐみが会っていると、偶然店の前を通りかかったカズ。気づいて店の中に呼ぶつぐみ。
芽衣子の頭に、すべてをぶちまける妄想が浮かぶものの、「邪魔しちゃいけないから」と彼女は出ていく。

第2話 扉は開けたままで
大学教授の瀬川(渋川清彦)は、単位が足らず、土下座して頼む学生の佐々木(甲斐翔真)に温情をかけず、彼は留年。
社会人入学した主婦の奈緒(森郁月)は佐々木と不倫しているが、瀬川を逆恨みする佐々木から「ハニートラップで瀬川を陥れよう」と持ち掛けられる。

ちょうどその頃、瀬川が書いた小説が芥川賞を受賞。
奈緒は念入りに化粧をし、その単行本を持参して瀬川の研究室に赴き、受賞作にサインしてください、と頼む。フランス語の授業で、瀬川も彼女のことを知っていた。
そして、この場面が好きなんです、と、物語の中盤のエロいシーンを、朗読し始める。廊下を学生たちが通るので、研究室の扉を奈緒は閉めるが、瀬川は「開けたままにしておいてください」。
こういうことを書いていて、先生も興奮するんですか、などと彼女は言い、瀬川はあなたに必要なのはむしろ僕よりカウンセラーでしょうと、怒りもせずきわどい会話に付き合う。
奈緒は突如、スマホに今の会話を録音している、先生を誘惑してその様子をマスコミに流すつもりでした、と吐露。
瀬川は困惑しつつも、じゃあ、僕宛てだけにその録音データを送ってください、と言う。
だが、そのメールが、瀬川ではなく、大学の事務局に誤送信されてしまった。

5年後、バスの中で奈緒と佐々木は偶然再会。佐々木は「奈緒さんが離婚したのも、瀬川が大学を辞めたのも、オレのせいじゃないから」としれっと言う。
いらだちをかかえつつ、彼女は佐々木を振り切れない。ようやくバス停で降り、佐々木はバスから奈緒を見る。

第3話 もう一度
高校の同窓会に出席するため、仙台へやって来た夏子(占部房子)。でも会いたい人は来ていない。翌日、帰京しようと仙台駅に向かっていたが、向かいのエスカレーターに偶然、その会いたかったみか(河井青葉)の姿を見つけ、あわてて追いかける。
みかのほうも「20年ぶり!偶然こんなところで会えるなんて!」と喜び、自宅が駅の近くだから来て、と誘う。

しかし、夏子はみかと話しながら、なんとなく違和感を感じはじめる。それはみかのほうも同様だった。
「ねえ、わたしの名前わかってる?」「みかでしょう?」「違う! わたしの名前はあや」。
なんと、ふたりとも、違う人物を「同級生」と思い込んでいたのだ。よく聞けば出身高校も別だった。
「あや」は、夏子が、彼女の話す「みか」と、同性愛の関係だったんだと察する。
夏子には「みか」が、かけがえのない、別れても彼女の人生を支えてくれる存在だったのだ。
気まずい思いで帰ろうとした夏子を引き留め、「あや」も高校時代、夏子と人違いをした、ピアノを一緒に弾いていた仲良しの少女の思い出を語る。

仙台駅まで夏子を送る「あや」。人違いだったがふたりはもう別れがたくなっていた。
そしていったん別れたのち、「あや」は駆け出して夏子を追う。そして抱擁して、「あなたと間違えてた友達の名前を思い出したわ!」と嬉しそうに告げるのだった。


偶然の出会いで、劇的に変わっていく人生、偶然のいたずらでの悲哀・・たしかに短編小説のようなテイストの映画だ。
いかにも濱口監督らしいなあ、と思うのは、登場人物たちがまるでディベートのごとく、語り合い、会話が続くシーンが長いこと。それを長回しの撮影で見せるから、臨場感と言うか、ドキュメンタリーみたいな生々しさがある。
特にタクシーの中の、芽衣子とつぐみの会話が淀みなくはずみ、リアルに観客は女の子たちの「恋バナ」に聞き耳を立てている感じになる。

3編とも会話のキャッチボールで問いかけ合っているのは「関係性」である。
元恋人との、切れそうで切れない関係性(腐れ縁ともいうが)、なんとか窮地に立たそうと画策する教え子と、それらを受け流す教師との関係性、人違いだったけど、その「他人」に話すことで、かつての「大事な友達」との関係性を構築しなおすふたり・・・
ただ、見る人によっては、「理屈っぽい映画」という感じを受けるかもしれない。

平日の昼間の上映だったが、水曜サービスデーでもあり、また濱口監督の「ドライブ・マイ・カー」がゴールデングローブ賞などを矢継ぎ早に受賞したからか、館内は満席(列によっては1席おきの発券であるが)。
午後1時ごろ映画館を出ると、外は小雪が降りしきっていた。
(1月12日、シネ・ヌーヴォ)
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