今年の最後の劇場鑑賞作品としてこれを選んでみたのですが、当たりでしたねー。
見事に面白かったです。
いや、面白かったと言っていいのかどうか・・・、とにかくこれは、好悪は分かれることでしょうが、広く観られるべき作品だと思いますね。特に、男性には。
デザイナーになる勉強をするために田舎からロンドンに出てきたエロイーズに、タクシー運転手が野卑な視線を投げ掛ける冒頭部分。ここから既に、中盤以降の展開に向けての不穏さが漂います。
そう、ニューロティック・スリラー仕立ての本作の根底にあるのは、男性が女性に対して抱く劣悪な妄想であり、またその妄想を表出して恥じない醜さです。そしてさらにここで描かれるのは、汚い欲望を隠さない連中がそれを行うだけのカネとそれなりの地位を持っていることのおぞましさと、それに抗う事を許さない社会的構造の歪さなんですね。
これはもう、本当に根深いです。本作の主な舞台となるのは60年代のロンドンですが、今だってその状況に大きく変わりはないですもんね。確かに現在は性暴力や性差別に強く抗議することへのハードルは低くなったように見えますが、そうした行動に対する妨害や抗議者に向けられる憎悪には凄まじいものがありますから。
作中、歌手志望のサンディは、望むポジションを得るために自らの美貌、肢体、そしてそれをよりセクシーに見せる動きによって、業界で影響力を持つ男たちの関心を惹こうとします。
でも、カネと地位のある男にとっての関心事は「そういう女の身体と心を思うままに弄ぶこと」でしかないんですね。肉体だけでなく、「夢を叶えたい」というその心を、己の性欲で汚すことである種の支配願望を満たそうとする男たちの下劣さには、同性ながら怒りを感じます。
搾取される女性の被害の酷さをただ描くだけでなく、そうした行為を当たり前のものと信じて疑わない(つまり、自分の行いになんら罪悪感を持たない)男性の心理をかなり踏み込んで描いている点において、本作は今年公開された「プロミシング・ヤング・ウーマン」と双璧だと思いますね。
今回は何の予備知識も入れずに劇場に足を運んだので、観賞後はなんとも心が乱れてしまって、うまく感想が書けないですね。感じた事、思う事はいっぱいあるのに。
最後にひとつだけ。
この作品の展開を見ていて、こういうの前に観た事があるなあ、とずっと思っていたのですが、観終わってしばらくして思い出しました。
「危険な情事」の脚本を手がけたジェームズ・ディアデンが1984年に発表した「コールド・ルーム」、あれに似てるんですね。
父の仕事の関係でベルリンで暮らす事になった少女が、大戦中にユダヤ人青年を匿った女性の運命を追体験する物語なんですが、ヒロインが暮らす部屋が物語の鍵になる設定や、幻想の中で起こったことが現実に重なって来る展開など、かなり共通しています。
ついでに言うと、「ラストナイト・・・」でエロイーズを演じたトーマシン・マッケンジーは以前「ジョジョ・ラビット」で「匿われるユダヤ人少女」を演じてるんですよね。
これはちょっと、面白い偶然だと思います。
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