チェグン(アン・ソンギ)は、山の中で自殺しようとしていたが、青いセキセイインコが飛んできたのを見て、ふと我に返ったようになる。
インコを捕まえて家に戻り、飼い始めた。彼にはまだ、やり残したことがあるのだ。
チェグンは運転代行のドライバーの仕事をしていた。
日本料理店に呼び出され、代行を請け負ったのは、恰幅のいい老人。
酔った老人が車中で話す会話から、彼が空挺部隊の上層部にいたギジュン(パク・グンヒョン)であることを知る。
チェグンがいきつけの食堂で、店員のジニ(ユン・ユソン)から頼まれごとをされた。
ジニには認知症の父がいるが、せめて父を安心させるために、恋人のふりをしてほしい、という。
年が離れすぎている、と苦笑しながらも、チェグンは服をあたらしくあつらえて、ジニとともに彼女の父に会いに行く。
だが、ジニの父は認知症から回復して、「正気」になっていた。
彼はチェグンが偽装恋人なのを見抜き、なぜ娘に近づいたんだと詰め寄るが、事情を知って逆に彼に、「復讐」を持ち掛け、こっそり隠していた銃を渡す。
ジニの父は光州事件を経験し、当時、市民への発砲を命令した人間がのうのうと生きているのが許せずにいた。その男を見つけ出して撃ってほしい、と。
ジニの食堂の息子は、イジメを受け、お金を恐喝されていた。
それを知ったチェグンは、不良たちをまとめてたたきのめす。
「おっさん、なんでそんなに強いんだ!?」不良たちは不思議に思う。
どこか謎に満ちたチェグンの姿。
妻に先立たれ、一人息子はアメリカに留学中、と食堂の店員たちは聞かされていた。
チェグンは光州にある国立公園の無頭山に登る。
なにかを必死で探しているようだ。
スマホで、「松の木が見えるがこのあたりか?」と盛んにたずねて、木の根元を掘ろうとするが、管理人に「ここは国立公園なので、勝手にそんなことをしてはダメです」と連行されてしまった。
そして同じころ登山口では、行方不明の男性をさがすビラを配る家族の姿が。
その男性は無頭山に入ったまま帰ってこないという。
登山客が、その行方不明の男性に山中で遭遇。
男性は「うちの高校生の息子を見ませんでしたか?」と訊きながら、写真を差し出す。
しかし、その写真は相当古ぼけている・・
男性は光州事件で、息子を空挺部隊に殺害されていた。
そして40年たった今でも、気がふれたように息子を探しているのだった。
チェグンは、その男性の息子こそ、自分が殺害した高校生だと知る。
実は、チェグンは1980年の光州事件当時、空挺部隊に属していたのだ。
隠していた過去を自分の息子が知り、責任を感じないのか、となじられ疎遠になり、息子はアメリカへ。チェグンも息子の言葉で改めて、一般市民を犠牲にした自分の罪に向き合い、苦しむようになる。
殺害した高校生の遺体は山に埋めた。その遺骨を何としても遺族のもとに返そうと思い続けてきた。
そして代行運転で何度も指名したギジュンが、豪邸に住み、クルマの中で「我々こそ、共産主義者をやっつけた愛国者だ」と、事件のことを反省していないのを知り、ついに決意をする。
スマホでこれまでのことを告白する様子を撮影し、そのデータを納めたメモリーを、テレビのニュース番組でよく知っている記者宛てに、バイク便で送った。
そしてチェグンは、ジニの父から渡された銃を持って、ギジュンの邸宅へと向かうのだった。
大阪韓国文化院主催の無料上映会。毎年、良質の面白い韓国映画が上映されます。
「息子の名前で」は、光州事件をテーマに、40年たっても傷の癒えない被害者、そしてそのことを反省していない当時の軍部への批判が主軸となっている。
そして、改めて、韓国にとって1980年の光州事件の傷跡が大きいことを実感する。
同じテーマの「光州5・18」には、やはりアン・ソンギが出演しているが、こちらでは、光州の道庁舎に立てこもって軍と戦う役柄。なのでいわば正反対なのだが、事件のことをはげしく後悔し、当時の上官を殺害しようとする、というところが、今までの光州事件が題材の映画とまた違うところ。
複雑な感情を抱く壮年の男性を、アン・ソンギが好演。
33年前、初めてわたしが見た韓国映画に主演していたのがアン・ソンギ。
それからずっと変わらず、彼のファンである。
(11月26日)
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