１８０１年、朝鮮王朝は、当時朝鮮に入って来ていた天主教（カトリック）を弾圧。
亡き国王の側近で、学識者の丁若銓＜チョン・ヤクチョン＞（ソル・ギョング）も追放。
丁家は学者一家で、天主教に入信したことから、若銓の長弟・若鍾は逮捕され殉教、次弟・若�鼻礇筌�ョン＞（リュ・スンリョン）は配流、若銓も朝鮮半島の南西に浮かぶ、絶海の孤島の黒山島（フクサンド）に流刑となった。
突然現れた、都の学者に驚く島民たち。
いつか都に帰ることしか考えていない役人のピョルチャン（チョ・ウジン）は若銓に冷たいが、素朴な島民たちは若銓を温かくもてなす。
未亡人のカゴ（イ・ジョンウン）が身の回りの世話をし、彼女の家で若銓は暮らすことになった。
若銓は、新鮮な島の魚の味に驚き、海洋生物の多様さに目を見張る。そしてこれらを書き記して記録に残そうと思い立つ。
島の青年・チャンデ（ピョン・ヨハン）は、腕のいい元気な漁師。
だが彼は学問に憧れ、文字を習い、船の積み荷に本があると片っ端から読むような向学心に燃えていた。
しかしチャンデは若銓のことを、学者ながら「邪教を信じた大罪人」と思っているので近づかない。
執筆には海の生き物や生態に詳しいチャンデの協力が欠かせない、と思った若銓は、島や魚のことを教えてもらう代わりに、自分の知りうる学問を見返りに教示する、と「取引」を持ちかける。
さいしょ、しぶしぶ若銓を手伝うことにしたチャンデだったが、やがて執筆の共同作業が始まり、チャンデは土に水が浸み込むように、知識を吸収していく。
はじめて「師」を持つことになったチャンデ。
しかしチャンデが、出世して両班（ヤンバン、朝鮮王朝の支配階級）に就くことが学問の目的だと知ると、若銓は失望。
また、天主教を知った若銓が、「王も両班もない世の中が理想だ」と語るとチャンデはとんでもない危険思想だ！と非難。
二人の心は離れて行く。
やがてチャンデの優秀さが島の外にも知れ渡り、妻子を捨てて出て行った、チャンデの実父のチャン（キム・ウィソン）が、出世が見込める息子だ、と言わんばかりに、のこのこと黒山島までやってくる。
チャンデは島を出て、都に上がる決意をした。幼馴染で妻のボンレ（ミン・ドヒ）や子どもたちともども海を渡る。
しかしそこで待っていたのは、役人たちの腐敗と、庶民への理不尽な仕打ち。
これが自分の思い描いていた道なのか・・・
その頃、老いた若銓は、島で病に臥せっていた。
ソル・ギョングが時代モノの映画に出る、しかも丁若銓の役、というので楽しみにしていた映画。
モノクロームの画面で、逆にそれが墨絵のような味わい深さになっている。
いかにも朝鮮王朝の学者然としたたたずまいが、ソル・ギョングにはぴったり。
壮年から、晩年の老人役まで、うまく演じ分けている。
原作は金薫（キム・フン）の「黒山（フクサン）」と聞いていたし、この本も読んでいるのでどんなふうに映像化されているのかな？と思ったのだが・・
実は「黒山」は、流刑になった丁若銓の物語でもあるが、むしろ丁一家や丁家長男の娘婿・黄嗣永（ファン・サヨン）や信徒たちへの壮絶な天主教弾圧や、厳しい身分制度にあえぐ庶民の活写がメインで、心に刺さるのだが、映画の中では、弾圧などのシーンは最初に出てくるだけで、黒山島での光景がほとんどだ。
２時間の物語に納めるのだから、それは仕方ないかもしれない。
そして映画はむしろ丁若銓よりも、無名の青年・チャンデのほうが存在感が大きい。
知識に飢え、目の前に現れた学者から貪欲に学んだものの、自分の理想とかけはなれた「出世の現実」に懊悩し、純粋に学問を追い求めた丁若銓のもとに帰ろうとする、チャンデの成長と挫折の物語になっているからだ。
わたしは原作の「黒山」を読んだときも、儒学者がカトリックを受容したのは何故なんだろう？と不思議だったのだが、先般、「黒山」の翻訳者・戸田郁子さんを迎えたオンライン講座で「当時の朝鮮の学者たちは『新しい学問』としてキリスト教に向き合ったのです」という戸田さんの説明を聞いて、なるほど、と思った。
実際の黒山島は全羅南道・木浦から１００キロにあり、さすがにロケは別の島で行ったそうです。
（１１月１９日、シネマート心斎橋）
※原作「黒山」を読んだときの感想
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1975413734&owner_id=5348548
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