珠子(加賀まりこ)は、占い師。というか、人生相談に乗って後押しをする感じの占いかた。でも評判がいいのか、遠くからわざわざ女性たちがやってくる。
彼女は息子の忠男(塚地武雅)、通称・チュウさんと二人暮らし。
だがチュウさんは自閉症で、こだわりが強く、いつも決まった時間に起床・歯磨き・食事をやらないとダメ。
ずっと珠子は彼の面倒を付きっ切りで見てきたが、自分の老後を考えて、チュウさんをグループホームへ入居させることを考え出す。
珠子の隣家に里村家が越してきた。珠子の家の庭から、通路に延び切った梅の木が、里村一家はじゃまでしょうがない。
しかし里村家の息子・草太(斎藤汰鷹)は、自分がなくした野球ボールを、チュウさんが見つけて届けてくれたことから、チュウさんに親しみを感じはじめる。
当初、自閉症の人間にどう接していいかわからずに避けるようにしていた里村家の茂(渡辺いっけい)と英子(森口瑤子)も、だんだんとチュウさんに自然に接するように。
グループホームは住宅街にあった。
入居者には、突然、大声を上げたり、予想外の行動をする者もいて、近隣住民からは「出て行ってほしい」と運動が起こってしまう。
住民説明会で、「グループホームのおかげで、マンションの評価額が下がるんですよ!」とクレームをつける男性。子どもの安全上怖くてしょうがない、という女性。
珠子は、近くの乗馬クラブの奈津子(高島礼子)に、あなたのとこの馬が逃げ出して騒ぎになったこともあったでしょ、とくぎを刺す。
実はチュウさんは馬が大好き。それで乗馬クラブの前まで来て、「ヒヒーン!」と叫びながら馬をよく眺めるのだが、奈津子は「馬がおびえて困る!」といつも苦々しく思っていたのだった。
グループホームの責任者・大津(林家正蔵)は、こまめに入居者に気を配り、運営に心を砕くが、チュウさんが、草太と夜にこっそり乗馬クラブの敷地に入って馬と遊ぼうとしたことで騒動になり、けっきょくチュウさんは退所することに。入居者と、生活のペースが合わず、トラブルになったのも大きかった。
また珠子とのふたり暮らしになったチュウさん。
彼にとっての日常が、また動き出した。
加賀まりこの54年ぶりの映画主演作、として話題になっている映画。
彼女の若い頃の写真を見ると、なんとも可憐でコケティシュだが、わたしはその頃の加賀まりこをよく知らず、どちらかというと毒舌でテレビ番組に出ている姿が強烈だ(映画「泥の河」の出演もあったが)。
江戸っ子らしいセリフ、思い切りの良さなど、「珠子」は、加賀まりこの等身大のような女性。
そして彼女の義理の息子(事実婚のパートナーの息子)が、自閉症なのだという。
たぶん、自閉症のひととの暮らしというのは、彼女にとっても普段の「日常」だったのだろう。「チュウさん」を見つめるまなざしも会話も暖かい。
チュウさん役の塚地武雅も熱演。
多様性、とか共生社会とか、最近よく聞くけど、ほんとうにそれを実現するのは困難が多いし、なにより、「自分と異なる人々」への寛容さと理解を、まず我々が身につけないといけない。
この映画は、そんな啓蒙作品というより、いろんな立場の人が地域に住んでいる、それを知ることからまず、始めよう、という思いが込められているような気がした。
(11月12日、シネ・リーブル梅田)
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