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2021年01月20日16:14

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映画「聖なる犯罪者」

“赦しとは忘却ではなく、赦しとは、愛だ”

ダニエル(バルトシュ・ビィエレニラ)は、少年院を仮釈放となった。
彼は、少年院では神父のミサの手伝いをし、聖職者への道にあこがれを抱くが、神父からは、「犯罪歴がある者は、神学校には入学できない」とキッパリ言われる。

「もう酒もクスリもやりませんから」と誓って出所したダニエルだが、そのとたんに、怪しげな店で酒とクスリざんまい、挙句に女と性行為に及ぶ。
製材所での仕事をあっせんされ、田舎町に向かうが、その途中にある小さな教会にダニエルは立ち寄った。
教会にいたマルタ(エリーザ・リチェムブル)に、冗談で「司祭だ」と言ったところ、彼女は新しく来た司祭だと信じてしまった。
そして、体調の良くない老司祭の代わりに、ミサや告解の代行をすることに。

少年院で聞いた、聖書の文言や神父の話を思い出しつつ、ダニエルはいつわりの司祭として教会で人々に語り掛ける。
どこの教区から来たのか? 前はどんなことをしていたのか?
町の人々の質問もたくみにはぐらかし、「沈黙も祈りです」と答えるダニエル。
スマホで検索して「告解の手引き」なんてマニュアルを見て、付け焼刃的に、信者たちの相手をする。

しかし、若くて行動的な彼は、いつしか町の人々の信頼を集めていく。
「将来の教皇候補だわ」とまでおだてる人も。
この町には、交通事故で一挙に7人もの人が亡くなった悲劇があった。
「飲酒運転をしていて、事故をひきおこした」とされる運転手の男性は、亡くなっても追悼台の写真に加えてもらえず、男性の妻は、町民からのいやがらせに遭っていた。

だが、よく話を聞くと、警察の調べでは飲酒した形跡は認められないといい、ほんとうにその男性のせいなのかは定かではない。
ダニエルは、家に置いたままの男性の遺骨と位牌を、ちゃんと町で埋葬しようと説得。
事故の遺族は反発しながらも、ダニエルの言葉に耳を傾けるようになる。

ある日、製材所のオーナーが、新工場竣工に際し、ミサをおこなってくれ、とダニエルに依頼。ところが、工場の中で、少年院でいっしょだったピンチェル(トマシュ・ジィェンテク)を見かけて動揺。

やがて告解にやってきた男が、ダニエルに脅しをかける。
ピンチェルだった。10万ズロチ渡さないと、お前の正体をバラすぞ、と。

ダニエルはつっぱねるが、ピンチェルの密告で、少年院時代の神父が駆けつけた。
彼を連れ去ろうとする神父を押しのけ、ダニエルはミサに立つ。
そして「わたしは人を殺しました」と、過去の罪を告白するのだったー。


別人になりすまして、でもそれがけっこう評判がよくて・・という類の物語は昔からあるひとつのパターンである。
最近でも昨年見た「コンプリシティ」が、不法滞在の中国人が、技能実習生の別の中国人になりすます話だったし(仕事先の蕎麦屋で、まじめな仕事ぶりが藤竜也演じる主人に気に入られる)、ついこのあいだ見たヒッチコックの「白い恐怖」だって、別人の医師と名乗って、グレゴリー・ペックが病院にやってくる。
また、フィクションの世界でなく、現実にもこの手の事件がある。
腕のいい歯科医、と患者の間で評判だったが、実は無免許で、歯科技工士をしているうちに、歯科治療の技術を覚えて、歯医者さんをやってて逮捕された、なんてニュースが以前にあった。

「なりすまし」の物語は珍しくはないが、殺人者が聖職者になる、という、もっともかけ離れたシチュエーションがこのポーランド映画である。
ダニエルはたしかに粗暴だし、モラル意識は低い。だが、うらはらに、正義や信義を重んじる面がある。
罪を犯したら、神学校にも入っちゃいけないのか?
いや、一度でも犯罪に手を染めたら、やっぱりアウトでしょ?
いろんな見方があるだろう。
そして、町で起こった事故のエピソードを入れたことで、真実は何なのか、というサスペンス要素も加味される。
善良そうな町民たちが、「加害者」と目された男の妻に、ひどい仕打ちをしていることがあぶりだされ、心の救済って何なのか? と思うし、ミサで敬虔そうに祈る人々の奥底があらわになってしまう。

堅いテーマのようで、人間の持つさまざまな側面について考えさせられ、ダニエルの行動から目が離せない。
わたしは東欧革命の直後、ポーランドに旅行したことがあって、その際、簡単な会話を覚えて行ったのだが、今回見たこの映画では、
ありがとう(Dziękuję ジェンクイエン)
はい(Tak タク)
ぐらいしか聞き取れなかったな(;´∀`)
(1月20日、テアトル梅田)
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