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2020年10月17日17:32

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映画「スパイの妻」

1940年、福原(高橋一生)は、神戸で海外貿易の会社を営み、妻の聡子(蒼井優)と大きな洋館で何不自由ない暮らしをしていた。
福原は当時はまだ珍しい8ミリカメラで、映画撮影の真似事をするのが趣味。
聡子や、甥の文雄(坂東龍汰)に演技させた映像を、会社の忘年会で披露したりしていた。

福原の幼馴染の泰治(東出昌大)が会社に訪ねてくるが、彼は憲兵隊の分隊長になっていた。
泰治は洋館にひとりいた聡子に、「まだ洋装なんですか?そのうちあなたたちへの非難が起こりますよ」と忠告する。聡子はおしゃれなワンピース姿だった。

福原が満州に文雄とともに出張。旧知の医師・野崎(笹野高史)から薬の入手も依頼されていた。
ところが帰国したあと、福原たちの周囲に不穏な影が。
聡子は泰治に「福原さんが満州から連れて帰った、弘子という女性が殺されたのをご存知ですか?」と聞かれる。

文雄は作家を目指すため小説を書くと言って、有馬温泉の旅館に逗留し、弘子(玄理)は、そこの女中として働いていたのだというのだ。
文雄は容疑者として連行され、激しい拷問を受ける。

いったい何が起こっているのか?
聡子は夫に、隠し事をしていたら打ち明けてくれと訴える。
そして、福原は予想もしないことを告白。たまたま満州で彼と文雄は、関東軍のおそろしい企てを知ってしまった。
看護婦をしていた弘子の協力で、それを裏付ける資料をひそかに持ち帰り、文雄は旅館で英訳をしていたというのだ。

「僕をスパイと呼ぶなら、それでもいい、でも僕はスパイじゃない」
「なんだっていい。あなたがスパイなら、わたしはスパイの妻になります」。

福原は身の危険を感じ、ついにアメリカに亡命しようと画策。
じぶんは上海に、そして聡子をサンフランシスコへの貨物船で密航させる手はずをする。
しかし、聡子は隠れていたところを見つかってしまって憲兵隊の元へ連行された。
聡子は自分たちは、正義のためにおそろしい情報を世界に訴えようとしたのだ、と叫ぶが、狂人扱いされてしまう。
病院に収容された聡子。
面会に来た野崎医師に「わたしは狂ってなんかいませんよ。でも世間からは狂っているように見えるでしょう」と告げる。
空襲を受けて炎上する病院からからくも抜け出し、海辺をさまよう聡子。
敗戦まで生き延びたが、夫の消息は分からなかった。


先日、ベネツィア国際映画祭で監督賞を受賞した話題作である。
これはある意味、とてもタイムリーな映画かもしれない。
まっとうで穏やかな生活をしているつもりが、世の中の一部の人からは批判の的になる、そして正義のために行動しても、弾圧を受け、命の危険にさらされる・・・
コロナ禍の「自粛警察」や、昨今のキナ臭い言論へのじわじわくる「統制」など、画面の物語は戦前のことなのに、みょうに現代とリンクしてくるのだ。
黒沢清監督の映画って、わたしが見たことがあるのは、かなり不条理なホラーばかりだったが、本作は、いろんな思いや自由な表現が抑圧されることへの対抗軸として、制作したように思えてならない。

陰影がくっきりした画面の中で、静かに語り掛ける高橋一生の表情が印象的。
すべてを受け止める妻役の蒼井優は、実生活でも結婚したからだろうか、肝の据わった落ち着きぶりの、気丈な妻を好演。

冒頭に出てくる福原の撮影したフィルムが、大きな伏線になっているのが面白いところ。
福原夫妻が山中貞雄監督の映画を劇場で見るシーン、福原撮影のフィルムを、皆が鑑賞するシーンでは、「スパイの妻」を見ている我々も、劇中のスクリーンに目を釘付けにしてしまう、といういわば、映画の中の観客と一体化する、不思議な感覚を味わえる。
(10月16日、シネ・リーブル梅田)
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