映画「世宗大王　星を追う者たち」

朝鮮王朝で、現在でも名君、と呼ばれる第４代の世宗（セジョン）大王（ハン・ソッキュ）。その頃使っていた「日時計」は、夜間だと計測が出来ない。
１４２２年、大国の明で使っている「水時計」について調べさせるが、簡単な絵図しか資料がなかった。
だが、宮廷の雑用係のヨンシル（チェ・ミンシク）は、その卓越した技術力と、科学の知識で、絵図を頼りに水時計を完成させてしまう。
これなら、夜間でも正確な時が刻める。
ヨンシルは奴婢の生まれだったが、この功績で世宗から、大護軍（テホグン）という武官に取り立てられた。
身分制度が厳格だった朝鮮では異例のことだ。

明の臣下の国である朝鮮は、農業の暦法も明のものを使用していたのだが、それだと、種まきや収穫時期がズレて、農民は米不足に悩んでいた。
ヨンシルはまたしても精緻な「天体観測機器」を完成させ、朝鮮独自の農業歴に貢献することができたのだ。そして、明の首都と漢陽は「半時間」の時差があることも明らかになる（現在でも北京ー東京の時差は１時間だから、ほぼ正確だったと言えるだろう）。

星を眺めながら、王様はゆるぎないあの星です、と北極星を指すヨンシル。そして世宗は、ヨンシルに、そのそばにある星を指さして、北極星に付き従うあの星がそなただ、と言うのだった。
ふたりには身分差を超えた、友情が芽生えていた。２０年間、ヨンシルは世宗に仕え、その技術力を発揮する。

しかし宮廷内には、このことを面白く思わない者もいた。
特に、明と通じて、大国の威光を借る者たちにとっては、朝鮮が力をつけ、明をしのぐような技術革新を得ることは、逆に明の機嫌を損ね、朝鮮の存亡にかかわると考えていたのだ。
そのため、親明派の臣下は明にこのことをひそかに報告、ヨンシルが苦労して作った天文観測器も、明王の命で焼き払われてしまうことに。
ヨンシルは世宗から引き離され、地方に左遷され、王の地方巡行で乗る輿の製作にあたらされていた。

世宗は、朝鮮の真の独立を考え、インテリ層が使う漢字ではなく、庶民にもひろく使える文字を考案していた。現在のハングルである。
そのいくつかをかつてヨンシルに見せ、ヨンシルは活字としてひそかに作っていた。
「이도」（李陶）は、世宗大王の諱名である。
しかし、世宗が療養で都を離れたあと、全権を握ったファン領議政（シン・グ）のもと、ヨンシルの部屋の捜索でそれが見つかってしまった。
こんなものは明への謀叛だと大問題になる。
それだけでなく、支配層にとっては、身分の低い者が簡易な文字を使って読み書きできるようになることは、支配システムを揺るがす、大問題でもあったのだ。

世宗を乗せた輿が大雨の中、車輪が折れて横倒しになり、世宗は投げ出されてしまう。
輿の製作者としてヨンシルの責任が問われ捕らえられたが、世宗は、ヨンシルほどの腕前の者が、こんな手落ちをするはずがないと思う。さらに車輪には、何者かが細工をした痕跡が。

世宗は軍事担当の兵曹判書（キム・ホンパ）を長老の崇禄大夫（ホ・ジュノ）のもとにむかわせるが、その過程で大司憲（キム・テウ）が明と交わした密書が見つかる。
世宗はヨンシルを遠方に逃がそうと奔走するのだが、逆にヨンシルは、かえって大王に難が及び、迷惑がかかると悟り、
「わたしがやった。わたしが王を殺そうとしたのだ！」と、裁きの場で叫ぶのだった。


朝鮮王朝時代の、きらびやかな衣装の美しさ、当時の技術で作り出された「水時計」や天文観測器の精巧さにまず目を奪われる。
そして世宗とヨンシルの心の交流が映画の一番の見せ場であろう。
かつて日本で韓国映画が広く知られる嚆矢となった「シュリ」で、韓国の秘密工作員と北朝鮮の工作員として対決する役を演じた、ハン・ソッキュとチェ・ミンシクがこうして共演しているのを見るというのも、たいへん感慨深い。
慈悲あふれる知的な王様役、天才的な腕前の職人役もそれぞれハマってのびのびと演じているように思えた。

また、見ながら思ったのは、「小国」の悲哀でもある。
中国という大国が地続きであるばかりに、朝鮮半島の国は、文化的な恩恵を受けつつも、常に侵略され、併呑されるのではないか、とおびえていたのではないかと思われる。
いかに大国から独立を保ち、自国民を守り、そのプライドも持ち続けて行けるのか？
王としての苦悩や模索も描かれていたと思う。
記録によれば、ヨンシルは、８０発のむち打ちの刑に処された、とあるが、その後彼がどうなったかは、記録にはない、という。
（９月４日、シネマート心斎橋）