夫に先立たれ、平穏な老後の暮らしを送っていたジョーン・スタンリー(ジュディ・デンチ)は、2000年5月、突如自宅にやってきたMI5にスパイ容疑で逮捕された。
先般死去した外務省事務次官のミッチェル卿の遺品から、ソ連のKGBとの関連が出てきたため、という。
連行され、取調室で厳しく追及されるジョーン。MI5はおどろくほど詳細に、彼女の行動を把握していた。そして尋問されながら、ジョーンの脳裏には青春の日々がはっきりと思い出されるのだった。
1938年、ジョーン(ソフィー・クックソン)はケンブリッジ大学で物理を専攻。
ひょんなことでユダヤ系ロシア人・ソニア(テレーザ・スルボーヴァ)と知り合う。
ソニアは学内でスペイン内戦の反戦運動をやっていて、ジョーンは誘われるまま、共産主義者の会合に参加。そこには、ソニアのハンサムな従弟、レオ・ガーリチ(トム・ヒューズ)がいた。
レオと恋に落ちるジョーン。
だが彼はコミンテルンにかかわり、イギリスから海外へ渡航。なかなか会えなくなる。
やがてジョーンは、イギリスの核兵器開発機関で事務員として働くが、マックス・デイヴィス教授(スティーブン・キャンベル・ムーア)にその優秀さを認められ、原爆開発のメンバーに入ることに。
そのことを聞きつけたレオは、再会したジョーンに研究内容を教えるように迫る。
しかし、必ずしも共産主義に賛同していたわけではなかったジョーンは同意できない。
逆に自分の恋愛感情を利用されているのでは、とレオに反発する。
だが、そんなジョーンの気持ちが変わったのは1945年8月。
ヒロシマに原爆が落とされた後の惨状を知ったからだった。
自分が開発にかかわった兵器の威力と、無差別大量殺人の恐ろしさをニュースフィルムで思い知ってしまう。
そしてジョーンは、移住先のスイスからイギリスに戻って来ていたソニアを通して、ソ連にイギリスの原爆開発の設計図の情報を流す。
ジョーンは「こんな重大な兵器を西側だけが持っていたら大変なことになる。兵力の均衡の為にも、共産主義国も核兵器を持たなければー」。
そう思ったのだ。
しかし、情報漏れが察知され、デイヴィス教授がスパイの疑いで逮捕されてしまった。
レオへの思いを断ち、デイヴィスに心を寄せていたジョーンは、面会で思い切って自分が情報を流した張本人だと打ち明けた。
そして外務省職員になっていたミッチェルに協力を仰ぐ。
共産主義者として活動していたことがわかると、彼も外務省内での立場がまずくなる。
ジョーンとデイヴィスは、ミッチェルのはからいで「スタンリー」というあたらしい姓を与えられ、そのパスポートでひとまずオーストラリアへと出国したのだった。
取調室からいったん自宅に帰されたジョーンは、弁護士をしている息子・ニック(ベン・マイルズ)から、なぜ国を売るようなことをしたのか、となじられる。
ジョーンは若き日の自分を思い出しながら、「ヒロシマのことを知ったからよ・・」とつぶやくのだった。
これは、「被爆国」の当事者としては、少々複雑な気持ちになる映画だ。
若きジョーンが、原爆のもたらす惨禍に心を痛めたとしても、いまでも核兵器所持を正当化するときに使われる「核を保持することで抑止力になる」というロジックを展開しているからだ。
結果、世界中に核兵器をバラまくことになったじゃないか、という気もするのだ。
ジョーンの主張も、核兵器を開発すること、所持すること自体が悪、という認識ではない。
この映画、実際の事件がベースになっているそうだが、ジュディ・デンチ、さすがの貫禄である。
(8月27日、大阪ステーションシティシネマ)
ログインしてコメントを確認・投稿する