☆洋ちゃんの読観聴 No. 1374
ドナルド・L・マギン (村上春樹 訳)
「スタン・ゲッツ 音楽を生きる」
ジャズのテナーサックス奏者スタン・ゲッツの
伝記である。これをゲッツ・ファンの村上春樹が
翻訳した。
ハードカバーで500ページを優に超し、しかも
上下段というボリューム。作者がインタビューした
人の数は数百名に上るのではないだろうか。
この書のおかげで読者は不世出のジャズの
巨人の細部にわたる人生を把握することが
できる。
スタン・ゲッツ(1927−1991)はユダヤ系
アメリカ人で貧しい家庭に生まれた。楽器を
買えるような家庭環境ではなかったが、彼を
評価する人たちに恵まれ、10代のうちに
プロの道を選ぶ。才能豊かなゲッツは、
たちまちプロの音楽家にも評価され、スター
への階段を上っていく。
音楽家としては文句のつけようのない
彼の一生ではあるが、彼は生涯を通じて
麻薬と飲酒におぼれた。またDV(家庭内暴力)
もひどかった。一生を通して4人の伴侶と、
数人の子供と孫に恵まれたものの、一人の
元妻とは離婚をめぐり長い期間の裁判を
行ったし、子供たちの中にはゲッツのDVを
許していないひともいた。
村上と同様にゲッツ・ファンの僕はゲッツの
数々のレコードを聴いているし、所有している
レコード/CDもかなりある。今回本書を読んで
驚かされたのは、私生活で厳しい状況jに
おかれているときに彼の演奏はその影響を
感じさせない。体調がひどいときは別として
彼の演奏は常に輝いているのだ。
ゲッツは200回以上のレコーディングを
行ったが、なんと1985年の録音が飲酒抜き
での初録音とのことだ。
読んでいてつらくなるエピソードが続くので、
楽しい読書とはならなかった。でも、ときどき
読書の手を休めて彼のレコードをターン
テーブルの載せて聴くと、感銘をおぼわざるを
えない。悲惨な私生活を知ったせいかもしれ
ないが、彼の音楽はとてつもなく美しい。
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