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2019年11月29日23:03

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生駒ビル読書会「神の子どもたちはみな踊る」村上春樹(新潮文庫)

恒例の北浜・生駒ビル地下会議室での読書会。
11月はふたたび村上春樹作品で、2000年に刊行された「神の子どもたちはみな踊る」。
6編からなる連作短編集で、当初は文芸誌「新潮」に「地震のあとで」というサブタイトルが付けられていた。
それからもわかるように、1995年の阪神・淡路大震災が、どの短編の登場人物にも間接的に関わっている。

当日の参加者は主宰者で村上春樹についての著作もある土居豊氏、会場のビルオーナーで読書会のオブザーバー・生駒氏、ほかに男性4人、女性4人、計10人でした。

※簡単に6編の内容を。
「UFOが釧路に降りる」・・阪神・淡路大震災のニュースを数日間見続けていた妻が突然家を出てしまう。主人公は友人に頼まれて、小さな箱を抱えて東京から飛行機に乗り釧路へ行く。

「アイロンのある風景」・・順子は海辺でいつもたき火をする「三宅さん」と知り合う。震災の後、関西出身と聞いていた彼に出身地はどこ?と聞くと「神戸の東灘区」と答える。三宅さんはわけあって家族と別れたままだった。

「神の子どもたちはみな踊る」・・善也の母はカルト宗教信者。震災のボランティアに出掛けていく。善也は「神の子」と聞かされていたが、生物学上の父親は耳がちぎれていたという。ある日、電車の中で耳がちぎれた男を見つけ、あとを追う。

「タイランド」・・女医のさつきはタイで休暇を過ごす。震災のあと「あの男」が地震で潰されて死んでいればいいのに、と思う。タイで雇った運転手は彼女をひとりの老女に会わせる。老女は「あなたの中に石が入っている。それをどこかに捨てなくてはなりません」とさつきに告げる。

「かえるくん、東京を救う」・・さえない中年男の片桐の前に突然現れた「かえるくん」は、今度は新宿直下で、阪神・淡路大震災以上の巨大地震が起きる、と予言。それを防ぐべく、地震を引き起こす「みみずくん」を倒すため、一緒に戦ってください!と懇願する。

「蜂蜜パイ」・・神戸の高校から早大に進学した淳平は大学時代、高槻と小夜子と知り合い、三人は親しくなる。淳平は小夜子に想いを寄せていたものの、高槻に先を越される形となり、小夜子と高槻は結婚。淳平は実家の父親と不和となり、絶縁状態となった。震災の後も故郷に帰らなかった。高槻の不倫で結局小夜子とは離婚。ずっと高槻夫婦と交流のあった淳平は、今度こそ小夜子と一緒になろうと考える。
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<土居さん>初出は1999年で阪神・淡路大震災の4年後。今から思うと思ったよりも書くのが早かったな、という感じがする。
わざと地震そのものには触れず、周辺のことを書いている。6作読んで初めて腑に落ちる感じだ。

<生駒さん>「タイランド」に登場する運転手は、主人公を自然に導く役回り、こういう人物が村上作品によく出てくる。
「蜂蜜パイ」は、三人の関係の描写がうまい。

<Sさん・30代女性>わたしもたき火が好きなので「アイロン・・」の心理描写がわかって、怖いぐらいだった。
「タイランド」は、人間の深い心理が描かれている。「蜂蜜パイ」は、作家のキャラクターが正直に出ている。

<Tさん・60代男性>わたしは、震災やオウム事件などのネタをわざとらしく使っている感じがしてしまった。

<Oさん・30代男性>初出の雑誌「新潮」掲載の時から読みました。直接震災を描くのではなく、こういうのを読みたかった、と思った。

<Mさん・30代男性>「アイロンのある風景」「タイランド」「かえるくん、東京を救う」「蜂蜜パイ」、みんな好きです。かえるくんが「かえるさん、じゃなくてかえるくん」と、くん付けをしつこく片桐に言うのはナゼなんだろう?

<Tさん・60代男性>「蜂蜜パイ」は、実際、父親と長らく不和だったという、村上春樹氏のリアリティーを書いていると思う。

<Nさん・50代女性>「蜂蜜パイ」の、淳平が小夜子と娘の沙羅を守っていこうと決意する、明るい終わり方は、とても好感が持てる。

<Rさん・60代女性>「蜂蜜パイ」は、こんな甘い終わり方でちょっともの足りない。
「かえるくん、東京を救う」は、カフカや安部公房を思わせる不条理なところがある。「みみずくん」ならずとも地球の中には、“怒り”が溜まっているのだと思う。そして、目に見えているものはホントのこととは限らないんだ、と思った。

<ごんふく>20年前に読んだときは、“地震のあとで”という副題が付いていながら、直接直接地震そのものをテーマにせず、遠景のように震災が出てくるのがちょっともどかしい感じがした。
しかし20年ぶりに再読すると、ダイレクトに震災が描かれていない分、読後感がとても切なかった。「かえるくん」は、名もなき、普通の庶民のシンボル。普通の人々が普通の生活を黙々と営むことで、健全な社会が成り立っているのだ、ということを語っている気がする。
改めて読み返すと、短編はその後のムラカミワールドにつながっている。
「神の子どもたち・・」→「1Q84」のカルト宗教
「蜂蜜パイ」→エッセイ「猫を棄てる」での村上氏と父親の確執。また小夜子の娘の名前が「沙羅」で、「色彩のない多崎つくると、彼の巡礼の年」にも「沙羅」が出てくる。

<生駒さん>わたしも東灘区生まれです。西宮、芦屋はいわばホームグラウンドで、村上春樹と一緒。
お父さんとの関係、不和は、彼の内に溜めたエネルギーになったと思う。

<Sさん・30代女性>村上さんってナイーブだけど頑固な人、言いたくないことは言わない人、だと思う。
震災後すぐにボランティアに駆けつけた田中康夫から「神戸出身なのに何もしないのか」と批判されて、すぐに何かができるわけではない、と答えてたことがあった。

<生駒さん>「タイランド」では、憎んでいる人が震災で死んでいたらいい、と思うほどのストレートな気持ちが出ている。恨みの化身が「石」なのだろう。

<Oさん・30代女性>憎んでる相手のことは具体的に書かれていませんが、その憎しみからして、性的暴行を受けたとか、そんな背景ではないかと思います。

<土居さん>「かえるくん、東京を救う」の「かえるくん」はいわば自然の化身、「みみずくん」は、人間が生み出したドロドロしたものではないかと。

<Oさん・30代男性>片桐さんは組織の中で「取り立て」の仕事をやっているので、一歩間違えば、組織の歯車になりかねないと思います。

<ごんふく>片桐さんはほんとうに銃撃されたんでしょうか?これも夢の中のことだったのか?

<Tさん・60代男性>「蜂蜜パイ」で小夜子がシューベルトの「鱒」をハミングする場面があるが、「鱒」ってハミングしやすいんですかね?

<土居さん>「鱒」は音楽の教科書にも載ってましたし、年代的にも、村上春樹も習ったのでは。
「かえるくん、東京を救う」で「かえるさん」でなく「かえるくん」と呼ぶように片桐に求めているのは、友だちなんだ、という親密さを表しているんだと思う。

<Oさん・30代男性>ジェイ・ルービンの訳の英語版だと片桐が「mister frog」と呼びかけると、「かえるくん」が「No, call me “frog” 」と答える、というふうになってますね。

<一同>なるほど・・・敬称のミスターがとれたのが「かえるくん」。

<Tさん・60代男性>「蜂蜜パイ」の三角関係は、都合よすぎますね。

<生駒さん>三角関係をつぶすには、それぞれがバラバラになる必要がありますね。

<Sさん・30代女性>村上春樹の書く物語って、第三者が推進力になって、話が進んでいくパターンが多いと思う。
「蜂蜜パイ」の中には三角関係が二つあって、当初の小夜子、淳平、高槻、そして小夜子、その娘の沙羅、淳平。

<土居さん>「蜂蜜パイ」は、ハッピーエンドじゃないような気がします。

<Oさん・30代男性>三角関係と言えば、フィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」がそうですね。

<土居さん>ハッピーエンドでいて、沙羅と小夜子はいずれ、対立する関係をはらんでいると思う。

<Rさん・60代女性>漱石の「こころ」にも同様の三角関係がありましたね。
「蜂蜜パイ」は、どこかおとぎ話ではないか?そしておとぎ話こそが残酷、という事実もある。

<Sさん・30代女性>こういう形でしか書けなかったのでは?

<土居さん>6編はまったく別々のお話ですが、それぞれ、リンクしているのがわかる。
「アイロン・・」の三宅さんが冷蔵庫に閉じ込められる悪夢を語り、それは「蜂蜜パイ」の沙羅の語る“地震男から箱に閉じ込められる”につながっている。「神の子どもたち・・」の善也のあだ名が「かえるくん」で、それがそのまま「かえるくん」として登場します。
ところで、「神の子どもたちはみな踊る」は舞台化されていますが、脚本は「かえるくん、地球を救う」と「蜂蜜パイ」を無理やり合体させてしまったもので、見に行ったんですが、なんだかちょっと・・・

<Sさん・30代女性>片桐役、阿部サダヲがやったらどうでしょう。

<一同>それ、ぴったりかもしれませんね。

ほかにもいろいろと感想や意見が飛び交いましたが、阪神・淡路大震災が、作家・村上春樹に大きな衝撃や傷を残したことは間違いなく、東灘区出身の生駒さんは、
「たぶん村上さんの親しかった友人知人、その家族に、少なからぬ震災の犠牲者がいたと思います」と推測していました。
それをメタファーをめぐらして、彼なりの表現でさまざまな形の物語に昇華させたのではないでしょうか。
理不尽な暴力や人知の及ばぬ力で損なわれる、ひとびとの暮らし。それへの怒りと無力感がこの短編集になったのだと思います。

12月の読書会はお休みで、年明けの課題は、同じく村上春樹のなつかしの「世界の終わりと、ハードボイルド・ワンダーランド」です。
(11月27日・生駒ビル地下会議室)
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