恒例の、北浜にある生駒ビル地下会議室での読書会。
10月も「平成の人気作家」ということで、東野圭吾の「幻夜」です。
TVドラマ化、映画化、さらに韓国版映画も制作された、大ヒット作の「白夜行」。
「幻夜」は、いわば「白夜行」の続編、という位置づけになっています。
<Amazonの内容紹介より>
1995年、阪神淡路大震災。その混乱のまっただ中で、衝動的に殺人を犯してしまった雅也。
それを目撃していた美冬。二人は手を組み、東京に出ていく。
美冬は、野心を実現するためには手段を選ばない。
雅也は、美冬を深く愛するがゆえに、彼女の指示のまま、悪事に手を染めていく。
やがて成功を極めた美冬の、思いもかけない真の姿が浮かびあがってくる。
彼女はいったい何者なのか――謎が謎を呼び、伏線に伏線が絡む。驚愕のラストシーンまで一気呵成の読みごたえ。ミステリーの醍醐味にあふれた傑作大長編。あの名作『白夜行』の興奮がよみがえる。
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「幻夜」をわたしは、単行本刊行時に読んだはずなのですが、アウトラインは覚えているものの、だいぶ内容は忘れてしまっています。
文庫本で読み直そうとすると、なんと780頁もの分厚さ。
読書会まで1週間ぐらいしかなかったのであわてて読み始めましたが、謎が謎を呼ぶ展開が続くので、先が気になってどんどん読み進み、2日で読了。
読書会は、いつもの主宰者の土居豊さんと、ビルオーナーで会のオブザーバーの生駒さん、そしてあと5人の計7人と、通常よりは少なめです。
<土居さん>
「幻夜」のストーリーは、いわば19世紀のヨーロッパの小説によくあるパターンです。
貧しい男性が美貌の貴婦人に近づいてのしあがる、という筋。「幻夜」では野心を持った女性がのし上がる物語ですが。
類似と言えば、山崎豊子や、松本清張にもありますね。
<生駒さん>
正直、文章の解釈を考えさせるような作品ではなかった。
「幻夜」の主人公・美冬の行動を読んでいると、有吉佐和子の「悪女について」を思い出した。
僕ら男性からすると、キレイでヤリ手の女性は、やはり魅力があると思う。
また「悪女小説」というカテゴリーも成立するのでは。
<Tさん・40代男性>
自分も阪神・淡路大震災の体験者なので、読みながら思い出して辛かったです。
戦後の、焼け跡もあんなだったろう、と思ってしまう。
また、自分も騙されたフリをして、美女に振り回されて見たい、とは思ったりはするけれど(笑)、「幻夜」は文体の深みや比喩の巧みさと言うものはなかった。
<Sさん・50代女性>
自分の正体を知られないように、と、殺される「曽我さん」がかわいそうだった。
でもこの小説のヒロインは、東野圭吾の理想なのでしょうね。
<Hさん・30代女性>
最後に悪が勝っており、読後感がやるせない。
「白夜行」は、雪穂と亮司が二人三脚で悪事をやってるけど、「幻夜」は、一方的に美冬の悪事に雅也が引きずられていく。
わたしも有吉佐和子の「悪女について」を読みました。
美冬はこれでもかと悪に手を染めるけど、彼女が「白夜行」の雪穂だとしたら、亮司の分まで生きていく、と思ってさらにしたたかに生きることにしたのでは?
それを踏まえての美冬だったら納得します。
<ごんふく>
これも「震災文学」ということになるのかもしれません。
当時の神戸の惨状を知る上でも、資料的価値があるのかも。
災害に乗じて、だれかにすり替わる、というのはミステリー小説によくあるパターン。
松本清張の「砂の器」とか、カード地獄で他人になりすます、宮部みゆきの「火車」を思い出します。
でも、そんなに身バレしないものなのか?
美冬を徹底的にのしあがって、他人を踏み台にする悪女として描きたかったのだと思うが、人の運命を狂わせたり、殺したりすることへの罪悪感とか内面の葛藤がまったく書かれていないのが物足りなかったです。
<ここで、殺人を犯した後逃亡し、整形手術をして、北陸で和菓子屋の女将におさまっていた福田和子の話も話題に上る>
<Hさん・30代女性>
「白夜行」と「幻夜」のあいだに、何かストーリーがまだあるような気がしますけど・・
<ごんふく>
「白夜行」の舞台は1992年で終わっていますけど、「幻夜」は1995年1月の震災で始まりますから、その空白期間の物語があってもおかしくないですよね。
<生駒さん>
「白夜行」のヒロインは、1992年の後、自分が死ぬようなことが起こり、そのタイミングで震災が発生して、人生をリセットした。
ハードルはいっぺん上がると、下がらないのだろう。
さいしょに殺人をやっているのだから。
<土居さん>
「悪女像」について伺いたいんですけど、女性にとって「幻夜」のような悪女はどうですか?
<ここで女性の参加者一同は腕組み・・・みな一様に、さほど『美冬』には惹かれなかったようだ>
<ごんふく>
「白夜行」でも「幻夜」でも、ヒロインのあこがれの存在として、「風と共に去りぬ」のスカーレットが出てきますね。
<Iさん・40代女性>
映画と、ミッチェル原作のスカーレットはちょっと違います。美冬ののし上がり方は、スカーレットとそんなに共通点はないと思う。
オッサン方は「美女にだまされたい願望」があるみたいですよね(笑)。
<土居さん>
「幻夜」は2000年を迎えるところで終わりますが、その頃が「悪女小説」が成立するぎりぎりだったのかな、と思います。
社会が閉塞していく現代では成立しないのでは。
ヨーロッパ的な「悪女」とは意味合いが違うが、日本でそれを描こうとするとどうなるか?
<Iさん・40代女性>
そういえば林真理子の「アッコちゃんの時代」なども、人こそ殺しませんが、女がのし上がっていく話です。
<土居さん>
「幻夜」のあとの物語を書くとしたら、美冬はもっと落ちぶれていて、リーマンショック後どうなっているのか?とか思います。
でも現代では「のし上がる女性」というのはピンと来ない。
安倍昭恵、なんていってもしょせん小物だし、もともと森永製菓の娘ですからね。
もっと時代が先にいって「幻夜」の読者は、
「この女の人、なんでこんな必死になってるの?」と思うかも。「のし上がる」というリアリティーが感じられているのかな? ということですね。
ところで、東日本大震災に比べ、阪神・淡路大震災をテーマにした小説って少ないな、と感じています。それはなんでなんだろう? と思ってるんですけどね。
<ごんふく>
お招きしてファンでオフ会もやったことのある、福田和代さんが、「黒と赤の潮流」というミステリーを書いていますが、あれに阪神・淡路大震災が少し出てきます。
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今回は、なかなか文章表現や、物語のテーマについてあまり掘り下げられなかった感が。
実は、わたしもいっとき東野圭吾をよく読んでいたものの、読んでる最中は面白くサクサクと読めるけど、読了後はなんにも残らない感じがして、最近は読むのがごぶさたとなっている。
だが、わたしが「実は、あまりヒットしていないし、謎解きものでもミステリーものでもない地味な話だけど、東野圭吾作品では『手紙』が一番好きです」と言ったら、
SさんとHさんがいちはやく反応。
おふたりとも、あの切なすぎるラストシーンがとても悲しくて忘れられない、と話す。
「手紙」は映画化もされたが、劇中、殺人犯の兄(玉山鉄二)のいる刑務所を、お笑い芸人をしている弟(山田孝之)が慰問で訪れるシーンは泣けるよね、と、話が盛り上がったのでした。
(10月23日、生駒ビル地下会議室)
次回のテキストは、村上春樹の短編「かえるくん、東京を救う」です。
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