mixiユーザー(id:5501094)

2019年08月28日10:17

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講談社版「大江健三郎全小説11」を読んで 

照る日曇る日 第1288回

連合赤軍事件の内省と内面化を執拗に追求した8つの短編連作集「河馬に噛まれる」、ダンテの地獄篇と重なり合う懐かしい謎の「殺人犯」ギー兄さんの遍歴を延々と辿る「懐かしい年への手紙」、大江の次男と実弟を狂言回しに、冒険譚とサスペンス、ディケンズの「骨董屋」、安保闘争と新左翼の陰惨な党派闘争、サーカスの少女を巡る愛の物語など雑多な要素を大鍋に投げ込んだ「キルプの軍団」の驚異の3本立ては尾崎真理子の懇切丁寧なる解説も交えて堂々716頁に達する。

書きに書く。書きに書けども、その行きつく先は作者にも、誰にも分からない。すべての読者が、そんな深くて巨大な文学の森に迷いに迷う快楽がここにはある。

ヴァトーの名画「シテール島への巡礼」を想起させる「懐かしい年への手紙」の息をのむように美しい 掉尾、そして「キルプの軍団」のラストを彩る大江の2人の息子が作詞作曲した「卒業」だけでも、ぜひ賞味して頂きたいものである。

    長すぎるエンドクレジットの只中で突然始まる別の音楽 蝶人


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