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2016年11月12日00:56

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松方コレクション展ー松方幸次郎 夢の軌跡ー

神戸市立博物館で開催の「松方コレクション展」を見に行ってきた。

明治の元勲で・総理大臣を二度勤め、大蔵大臣としても日本銀行設立に携わった、松方正義の三男として生まれた松方幸次郎。

彼は政界には進まず、川崎造船所、神戸新聞社の初代社長として実業界で活躍、そのかたわら西洋美術を日本に紹介すべく、ヨーロッパで1916年から1927年まで、膨大な美術品の収集にあたった。
一方で海外に渡った喜多川歌麿や葛飾北斎などの浮世絵コレクションを購入して、日本への里帰りを実現させた。

これらの美術品を公開するための「共楽美術館」を構想していたが、1927年におこった金融恐慌のあおりを受け、川崎造船所は経営危機に陥り、一部は売り立てられ、一部は関税の問題からヨーロッパに残され、散逸。

イギリスの倉庫にあった松方の収集した美術品は、火災で焼失という憂き目にも遭っている。
フランスに残されたものは戦後、交渉ののち一部を除いて日本へ返還され、それらは東京・上野の国立西洋美術館で見ることができる。

かように、「松方コレクション」は、映画になるようなドラマティックな運命をたどったわけだが、今回の展覧会は、国立西洋美術館蔵の絵画をはじめ、フランスに残留した(というより、フランス政府が返還に応じなかった)ピカソやロートレック、スーティン、セザンヌ、モローの作品、散逸したのち、個人蔵や地方の美術館蔵となった作品を集め、実現しなかった松方幸次郎の「夢の美術館」を21世紀に再現したものだ。

とはいえ、松方幸次郎のコレクションは1万点あったといわれ、いまだにその全容は明らかになっていないという。

今回の展覧会の目玉でポスターにもなっているのが、ロートレックの「庭に座る女」(現在・オルセー美術館蔵)。庭の植物の緑と、女性のドレスの紫色の対比が絶妙だ。
わたしは、日本では知名度はないものの、フランク・ブラグィンの「松方幸次郎像」をはじめとする作品群がやはり印象に残った。
彼は、ヨーロッパにおける松方の美術品収集の指南役をつとめた。
肖像画もその友情の証だろうか。
ブラングィンは、ウイリアム・モリスの工房にいたこともあるそうだ。
花々を描いた板絵は、なるほど、どこかモリスのデザインを思わせる精緻さがただよう。
あるいは彼の存在がなければ、松方の膨大なコレクションは生まれなかったかもしれない。

この展覧会は「神戸開港150年プレイベント」の一環として実現なった。
神戸と松方幸次郎とはかなりゆかりがあるのだ。
先述したように神戸新聞社の社長も務め、川崎造船の工場を神戸に設立。
神戸商業会議所(現・商工会議所)会頭も務めている。
川崎造船所では労働争議をきっかけに「8時間労働制」を日本で初めて実施したという。

それにしても、絵画、とりわけ有名画家の絵画というものはなんと因果なものだろう。
それ自体は芸術家の才能の発露した作品であるのに、値段をつけられ、破格の資産価値を有してしまうと、思わぬ流転の身となる。
かつてバブル時代、わたしの故郷からそう遠くない山あいの村に、レース場がつくられ、経営者が億単位でピカソの絵を購入して話題になった。
経営者は専用の美術館をレース場に隣接して作る、とブチ上げたが、バブル崩壊とともに計画は頓挫。
しばらく前「NHKスペシャル」で、バブル崩壊後に散逸した国内の美術品がどうなったか、というリポートが放映されたが、あのピカソの絵は、某金融機関の倉庫の奥深くに眠っていた。
つまり、借金のカタに取られ、だれからも鑑賞されることなく死蔵されているのである。

ところで、展覧会が開催されている神戸市立博物館も、21年前の阪神・淡路大震災で、建物自体の倒壊はまぬかれたものの、大きな被害を受けた。
近隣のビルやホテルも全壊・半壊したという。
博物館のすぐ隣の神戸オリエンタルホテルも同様だ。
しかし現在では、瀟洒な構えのホテルで、何も知らなければ、ここで大震災が起こったことが信じられないほどだ。
ホテルの入り口には、早くも、壮麗なクリスマスツリーがしつらえられていた。

松方幸次郎は、もう江戸幕府が終わりを告げようとする慶応元年、鹿児島に生まれた。
彼が初代社長の川崎造船所はのちの川崎重工業株式会社である。
川崎重工、といえばわたしなど「電車の車両」というイメージだが、自衛隊の潜水艦や航空機も製造している。
今でも本社は神戸市だ(わたしはながらくその社名から、神奈川県川崎市が本社とだとばかり思っていたものだが)。

かつて、鹿児島大学に進学した高校の同級生(彼女はのちに女医になった)をたずねて鹿児島市に遊びに行ったとき、市内に降り積もった桜島の火山灰を指さしながら、彼女は、
「この灰から明治が生まれたのよ」と言ったのを、いまでもありありと思い出す。
松方幸次郎が日本の近代産業に貢献したことも思うと(そして明治期の政治家を生んだことも合わせると)、遠い昔の彼女の言葉にうなずく。
(11月10日)

「松方コレクション」については、2014年1月の日記でも言及しています。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1919718291&owner_id=5348548
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