mixiユーザー(id:5348548)

2016年11月06日22:56

579 view

3月のライオン

ああ、自分に予備知識があればもっともっと面白いのに・・・
と、本を読んでいて思うことがよくある。

しばらく前に恩田陸さんの長編最新刊「蜂蜜と遠雷」を読んだのだが、これは国際ピアノコンクールを舞台とした小説だった。
個性的なコンテスタントたちが登場し、さまざまな課題曲を弾くため、クラシックのピアノ曲が物語に出てくるが、この方面にはからきし弱いわたしはほとんど知らない曲ばかり。

たとえば、

バッハ「平均律クラヴィーア曲集 第1巻第1番ハ長調」
モーツァルト「ピアノソナタ 第12番ヘ町長K332」第1楽章
ドビュッシー「十二の練習曲・第1巻第1番 五本の指のための/ツェルニー氏に倣って」
バルトーク「ミクロコスモス第6巻より 六つのブルガリア舞曲」
ショパン「スケルツォ第三番嬰ハ短調」
メンデルスゾーン「無言歌集より 春の歌」
ブラームス「カプリッチョ ロ単調」・・・・・

といった具合。
頭の中でまったくメロディを鳴らせない。
お詳しいかたなら、脳内BGMとして、読み進められ、臨場感もいやがうえにも高まるのだろうが、
わたしはそれができずに、もどかしいまま読み進めることに。
まあ、YouTubeでそのたびごとに検索するとか、方法はあるワケだが、あらかじめ頭に浮かぶ曲を前提に読むのとは雲泥の差だ。
もちろん、恩田さんの書く世界は、たとえそれらを知らずとも、魅力的な人物のあふれんばかりの才能を描出しているわけで(文字だけでピアニストの演奏する世界を表現するのだから、それも当然だろう)、国際コンクールの緊張感をぐいぐい読ませる力量はあるのだけど、ああ、自分がわかって読めたらなあ、とずっとずっと思う気持ちが離れなかった。


同様のことをもうひとつ。
10月からNHKで土曜日の夜、アニメ化された「3月のライオン」が放映されている。
中学生でプロ棋士になった、孤独な少年の成長を描く物語だが、当然、対局の場面だとかが出てくる。
そして、わたしはやっぱり、将棋がまったくわからないのである。

親に教わって将棋を覚えた、という人が多いと思うが、不調法なわたしの父は将棋や囲碁やマージャン、それらはまったくやらない(できない)ひとだった。
女の子だったから、ということもあるにしても、駒の動かし方とか基本的なルールも全然知らずにこのトシまで来てしまった。
しかしながら、マンガやドラマで棋士をテーマにしたものはけっこう多い。
対局場面や棋譜が出てきても、どこがすごいのか、どちらが優勢なのかさっぱりわからず、仕方なくそのままスルーして読み進めるしかなかった。

「3月のライオン」は、正直言うと、あの絵柄が苦手である。
70年代のオトメチック漫画みたいな、やたら瞳の大きな登場人物たちなのに、「シビアな勝負師」の世界を描く、というそぐわなさが、違和感ありありだし、シリアスなストーリーにはさまれる子供っぽいギャグも「こんなの入れなきゃいいのに」と思ってしまう。

だが、「勝つか、負けるか、どちらしかない」世界に身を投じて生きることを選択した少年のたとえようのない孤独感とか、プロ棋士になることで、はからずも彼が狂わせてしまう師匠の家族の屈折した感情とか、読むうちにどこかわたしの心のうちがざわざわとしてくるのを感じる。

そして、ああ、将棋が分かっていれば、もっと面白いのかもしれないな、とまたしても残念に思う。
ちなみに配偶者は大学時代、囲碁部だったそうだ。

もうひとつ、わたしにとってはどこか胸がしめつけられるような気持ちになるのは、「3月のライオン」が東京の月島近辺を舞台にしているからだ。
描かれる隅田川沿いの高層ビル群が立ち並ぶ水辺の風景は、かつてわたしがよく見知ったものだった。
東京で勤務していた会社は四ツ谷にあったのだが、会社の都合で3カ月だけ、築地の隅田川沿いの本社ビルに通っていた時期があった。
19階の事務所から、仕事の合間にふと目をやると、「3月のライオン」に登場するような光景が広がっていた。
隅田川をゆっくり走ってゆく遊覧船。
川面のきらめき。
まるで近未来都市のような、そびえたつ高層ビル。
仕事が早く終わると、川べりを散歩して帰ることもあった。
川、というよりもう東京湾はすぐそばで、潮の香りがする街だった。
水辺の近くにいると心休まるというのは、太古、生物の祖先が海に棲んでいたからその記憶なのか、などとふと思ったり。
そういえば、「3月のライオン」の主人公・桐山も河のそばは心が落ち着く、と言ってましたね。
2 6

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2016年11月>
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930   

最近の日記