配偶者が斑鳩町に出張。
斑鳩といえば法隆寺だ。
遠い昔、修学旅行で行ったはずだが、ほとんど記憶に残っていない（金閣寺や清水寺はけっこう覚えていたのだが）。
たしか、朝日新聞「天声人語」の深代惇郎氏の「絶筆」は『いつかもう一度、法隆寺を訪ねてみたい』だったはず。
そんなことを思い、ちょうど年に一度の「正倉院展」も奈良市で開催中なのも幸い、じゃあ、法隆寺にも足を延ばそうと昨日、配偶者といっしょに斑鳩町まで。
地下鉄天王寺からJRで王寺駅まで行き、奈良交通のバスに乗り換え。
配偶者は仕事先の役所前で降り、わたしは次のバス停「法隆寺前」で下車。
先週たずねた広島市もそうだったが、ちょうど秋の修学旅行シーズンンなので、小学生や中学生の団体が絶えずやってくる。
わたしのように数十年後「法隆寺？ あれ・・行ったっけ？」みたいな子も多いかもしれない。
意外だったのが五重塔が思いのほか小さかったこと。
高く高くそびえたっていたようなイメージ（これは多分に写真や映像で見て、勝手にそう思っていたフシがある）だったのに、ホンモノはちょっとこじんまりした塔にわたしは見えた。
興福寺や東寺の五重塔のほうがずっと大きいと思う。
ところで、奈良や京都の、こういった「古い由緒あるお寺神社」に立つと、
なんだかぞわっとする、とか、
パワースポットのご利益を感じる、とか
言う人もいるし、奈良を舞台にした作品がある里中満智子や恩田陸も同様のことを書いている。
しかし、わたしはその手のセンサーがまったくないせいなのか、全然こういうたぐいの経験がない。
法隆寺は「ふるーいお寺」（笑）。
これでおしまい。
とはいえ、例によって国宝が目白押しであるから、玉虫厨子とか観音像とか釈迦三尊像を拝観し、夢殿まで歩き、さらに奥の中宮寺で半跏思惟像を拝んでいると、なんとなくありがたい気持ちになってくる。
夢殿に聖徳太子がこもって瞑想した、というのは、これも昔、山岸涼子のマンガ「日出処の天子」で読んだと思う。
そういえば、お札の肖像をハズされてから、めっきり聖徳太子って存在感が薄れたような気がするんですが。
昨今「聖徳太子は実在しなかった！」なんて説も登場してるようだし（そちら方面は詳しくないのでなんとも言えません）。
国道に出てバス停の椅子に座っていると、にわかに雨が強くなる。
１０分ほどしてやってきたバスに乗り込んだので、傘はささずにすんだのが幸い。
JR王寺駅に戻り、快速に乗れば、１５分ほどで奈良駅に到着。
駅前の商店街を抜け、しばらく歩いて近鉄奈良駅に。
それから右に興福寺を見つつなだらかな坂をのぼれば、外国人観光客たちが、鹿といっしょのツーショット写真を撮りまくっている。
やがて、正倉院展が開催中の奈良国立博物館。
雨模様も混じる天候のせいか、昨年行ったときと違い、今回は入場まで行列することなく、すんなり入れた。
ただ館内はそこそこの混みかた。高齢者が非常に多し。
正倉院御物ってですね、ざっくり言ってしまえば
『聖武天皇のお気に入りグッズコレクション』
なんですよね(^^;
ポスターやチラシにもなっている、今年の展示の目玉が「漆胡瓶」。
ペルシャ風の水差しです。
竹を薄ーくしてそれを輪っかにし、ぐるぐると巻いて形を整えて、黒い漆を塗り、銀の薄板で鹿や草花の文様をあしらったのだとか。
象牙の笏（聖徳太子の肖像で、手に持ってるやつですね）や櫛、藺草でしっかり編み込まれた容器、象嵌装飾の墨壺、仏具につけられたであろう鈴、現在なら「のぼり」にあたる「大幡（だいばん）」、笙（しょう）や竽（う）といった管楽器、�痳髻覆蹐Δ韻繊棒�めの織物・・・
１３００年前の空気をそのまままとって、２１世紀にお目見え。
わたしはむらさきがかった赤い色（いわば、えんじ色）が好きなので、この色を基調にした織物にはとても心惹かれる。１３００年前はもっと鮮やかな色だったのか。もっと赤が優っていたのだろうか。
祖父が大工だったので、子どもの頃、墨壺はなじんだ「おもしろい道具」だった。
ああ、あんな昔もこういう形で墨壺を使っていたんだね、と見入ってしまう。
それにしてもこういったいにしえの文物を見ていると、ふと妙な気持ちにとらわれた。
日本らしさ、日本の文化ってなんなのだろう？
正倉院展にただようのは、あきらかに「異国趣味」だ。
ペルシャ風の水差しもしかり、織物の意匠も、西域由来の唐草模様からのモチーフ。
舶来品も多いが、異国のものを翻案して、つくらせた「雑貨」が並んでいる。
そうだ、法隆寺に並んでいた仏像にしたって、中国大陸や朝鮮半島からの技術とセンスとスピリッツをもとに作り上げたのではないか。
別にそれはオリジナリティーがない、とか言うのではなく、
いまさら「日本の国際化」とか「外国との文化交流」とか声高に言わずとも、千年以上前から、まさにグローバルコミュニケーションを実践していた、ということをありありと思わせる、ということ。
「バタくさい」というのはもはや死語だが、わたしは不意に「バタくさい」という形容が浮かんでしまうほどの、聖武天皇の過剰なほどの外国由来グッズ好きを思い浮かべてしまうのだった。
とはいえ、展覧会場の最後、「写経所」の職員が書いたという上申書に、いちじるしくシンパシーを覚えてしまった。
いわく、うまい食事をだしてほしいとか、衣服もちゃんとしたのを支給してとか、休みは月に５日はほしいとか、写経をやってるとどうしても足がしびれてかなわないから、酒を支給してね、とか。
要するに職場環境向上と福利厚生の充実を訴えているわけですね。
千年たっても働く人の不満や希望はやっぱりおんなじ。
人間というものの普遍性をいたく痛感した、古都の秋でした。
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