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2016年10月15日23:42

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白井聡×待鳥聡史 対論 「どうなる? アメリカ大統領選とこれからの日米関係」

朝日新聞社主催・政治学者の白井聡氏をホストに、毎回ゲストと語る「関西スクエア 中之島クロストーク」。
10月は同じ政治学者の待鳥聡史氏(京都大学大学院教授、1971年生まれ)をゲストに迎え、タイムリーなアメリカ大統領選をテーマにしながら語っていただきました。
以下、2時間近くのお話の内容は、わたしのメモをもとに書き起こしています。
例によって、聞き洩らしなどもあり、前後の流れがうまくつながらない部分もありますがご容赦ください。

(白井)きょうは三連休の最終日、しかもこんなにお天気がいい日だというのに、ここに集まってくださるなんて(笑)、ありがとうございます。

待鳥先生は比較政治学がご専門ですが、そもそも「比較政治学」って何だろう? とよく訊かれます。後輩にたずねると「比較政治学者の数だけ定義がある」と(笑)。
私は制度論を重視しているように思います。大統領制、議会制民主主義などです。しかし、議会制民主主義と言っても、多党制、2大政党制、一院制、二院制といろいろ。
具体的な制度を通じて思想というものが支えられる、というところに着目しているのが比較政治学の特徴ではないかと。

(待鳥)政治学の中でほかの分野に収まらないものが比較政治学だ、と言われました。
だいたいふたつに分かれます。
(1)地域の特徴に着目して研究する場合(アメリカ、中国、韓国・・等々)
(2)政治の仕組みの中で、有権者の行動を研究。
かつては、「民主化」「近代化」がテーマでした。

(白井)メインフィールドはどことお考えですか?

(待鳥)制度の違いが、政治にどう影響を与えてきたか? ということです。
たとえば地方の首長選挙では弱小政党の支持者は、当選しそうな人に投票、しかし議会だと複数当選しますから支持政党に投票する、こういう投票行動を考えています。

(白井)今回のクロストークのテーマのアメリカ大統領選挙ですが、よくアメリカ大統領は世界の大統領だ、とか世界的な影響力がある、とか言う人がいますが、そんなに力があるわけではない。
単なる調停者に過ぎない。実質は議会が機能不全になったときに大統領が出ていく。
もともとはタイの王様みたいな権限を期待されていたのでは?

(待鳥)イギリス国内の君主と議会との対立が、アメリカにも投影されます(総督と議会)。
総督はのちに知事、独立後は議会に集権化される。
アメリカはフランスの助けで独立を果たせました。州がバラバラだったため新しい憲法を作り、強力な中央集権を作り、議会の力を抑制できるものとして大統領ができる。
議会を止めるのが大統領だった。外交上は国家元首でもあった。
政党ができてくると第1党から大統領、第2党から副大統領が選出されますが、のちに変わってくる。

(白井)現在のドイツはある種の権威としての大統領ですね。
建国当時のアメリカでは、議会は立法府、大統領は行政府のトップではなく、立法府の暴走を抑制する存在だったと言える。

(待鳥)行政権を持つようになったのは19世紀末。
南北戦争で州と連邦の対立、力関係が問題となりました。
20世紀のはじめまで、アメリカには中央銀行がありませんでした。
銀行の許認可はずっと州。
中央銀行を作って、連邦とうまくやることができるのか、というのが問題だった。
アメリカでは「行政」という概念がずっとなかったといえる。

(白井)建国当時、国家としてはシンプルで、行政的な政策も福祉政策もなかった。
19世紀末になって、大統領のリーダーシップが期待されるようになります。

(待鳥)各州バラバラだったのが、南北戦争後ガラっと変わり、移民が増える。
19世紀末には、ロックフェラー、スタンフォードらの成功者が現れます。
連邦裁判所は個人の自由、権利に照らして、連邦政府は経済的にも自由にしなければならないーーこれが1929年の恐慌でニューディール政策がおこなわれるまでつづくわけです。

(白井)その当時、アメリカの司法はこんなのは憲法違反だ、と批判したなんて面白いですね。
ルーズヴェルト的手法で国の運営を図るのが正しい、というのがその後定着しましたが。

(待鳥)アメリカは、各州が批准しないと憲法修正ができないため、時間がかかる。
議会が受け入れ、最高裁が受け入れ、大統領の権限拡大が図られる。
しかし権限を持ちすぎたせいで、ベトナム戦争の拡大という間違いをおかした。

アメリカ人は、所得水準を下回っていると給付をする、というのはアメリカ的価値になじまない、という考え。
しかし1970年代にかけて学生運動、治安の悪化などが起き、ミドルクラスが危機を持った。
たとえば「人種バランス」を考え、黒人の多い学区にも強制バス通学をおこなったりしますが、ミドルクラスがこれに反発。
法と秩序を訴え、アメリカの雰囲気が変わります。それを体現したのがニクソンやレーガン。

(白井)アメリカは70年代に大きなゆきづまりに直面したと思う。
第2次大戦後、「平等」と「経済成長」が両立。
しかしベトナム戦争と1973年のオイルショックで成長は鈍化。「福祉国家」はもうできない、となった結果がネオリベラリズムに転換していく。

大統領と議会の関係もうまくいかなくなる。
日本では「ねじれ国会」というのがありましたが、アメリカでも同様のことが起きる。
現在も民主党の大統領で、議会は共和党が多数です。

(待鳥)ニクソン以降、共和党が大統領選で強くなった。
しかし、連邦議会では民主党が多数。地元に根を張る議員は再選されやすいです。
1992年にクリントンー旦那さんのほうですねーが当選、しかし94年には上下両院で共和党が多数。
私は学生時代、「なぜ共和党は半永久的少数か」なんて本を読まされたりしたものですが(笑)、多数党がひんぱんに入れ替わります。

連邦議会は全米的潮流の影響を受けている。
民主党の候補は、全米どの州から選ばれている人も似たような考え、政策になっている。
90年代半ばから、アメリカ政治の在り方は変わってきたのでしょう。

(白井)強い大統領のリーダーシップで社会改革を行うことは、1970年代になっていかがなものか、となります。
だが党や議会が主導してもうまくいきそうにない。
トランプは、共和党の(日本でいうところの)「総裁的立場」ではないですよね?

(待鳥)アメリカの政党は伝統的に、民主党、共和党、という「ラベル」だけを共有している。
議員さんは政党としての公約を掲げて当選しているワケではない。
大統領が当選した時に○○をする、といった大統領選挙の年に作る公約として集約する。大統領が不人気になると、同じ政党でも距離を置いたりする。
しかし最近は、政党対立が大きくなっている。
ライフスタイルにからめー飲むビールが違う、乗るクルマが違う、というようなーアメリカの政治を持たせていたのは、いい加減さである。
その場その場で多数派を作ることで、思い切った政策を作る。
期待水準が高いからこそ、大統領選挙は盛り上がる。
しかし現実はギャップがあり、そんなに政策の実現ができていない。

(白井)イデオロギー対立は終わった、と言われたはずなのに対立しているのはなぜ? という疑問がありますが。

(待鳥)保守とリベラルの対立は、経済政策の対立。
ヨーロッパのような王党派はいません。
アメリカは20世紀初頭まで未開拓の土地があり、移民が大量に入ってきて、弱者が固定されなかった。だから社会主義の考えが入らない。
自由主義が基本原則。
それをどう実現するんですか? というのが違いなんです。
現状維持、というのがコンサバティブ、
競争条件を整える、というのがリベラル。

1970年代に40〜50歳の人は第2次大戦中が子供時代、アメリカの力が強い時代に青年時代を送っている。
不満を持つ人が現れると、保守とリベラルが経済政策対立ではなく「生き方」の対立となった。
パイの分け前、だと解決しやすい。
しかし、価値、生き方文化の問題となると解決が難しい。
人工妊娠中絶の問題とかもそう。
ゼロか1か、という問題は対立が起きやすい。
ヨーロッパみたいな、イデオロギー的な保守とリベラルの対立とは違う。
しかし今は経済的対立軸と保守とリベラルの対立軸がズレている。
経済的対立から社会的文化的対立に変わってきている。

(白井)アメリカ全般のゆきづまりを象徴して、大統領と議会の対立がみられる。
今回のように、民主・共和の両候補がこんなに嫌われている選挙なんて初めて。
ジェファーソンなどは大変尊敬を集めて選ばれた。今回はどっちが選ばれても尊敬できない。
映画の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」、あの中に「ビフ・タネン」ってイヤな奴が出てくるでしょう?
あれがトランプ候補のモデルだって言われています。
政治上の行き詰まりがこういうところに現れている。彼みたいな人間が大統領候補になるってどういうことなのか?

(待鳥)私は、トランプが共和党候補に選ばれることはない、と断言してましたからね、ハズしてしまった奴に訊いても・・(笑)
3期連続、同じ政党から大統領が出る、というのは例外です。
最近ではレーガン→ブッシュの時代。
2008年の大統領選ではヒラリー・クリントンが大本命でした。当時は女性有権者に訴求力があった。
しかし、8年のうちにそれが失われた。有権者にしてみればもう男性女性にこだわらないし、(クリントンが今回ならなくても)いずれは女性も大統領になるだろう、という思いがある。

トランプは自前のお金で選挙戦を戦った。
言いたい放題なのは献金してくれる者からの影響がなく、自由だということ。

「ティーパーティー」が地域組織を乗っ取ってしまっている。
これが党の分裂を起こしている。
共和党の一番熱心な支持者は中西部の“純朴な人”。
外国には関心がない。そういう人にはトランプの(他国を侮辱するような)問題発言も関係ない。
いわば、トランプは政治不信から出てきた鬼っ子といえる。


<ここで休憩が入り、再開後は、アンケート用紙に書かれた、クロストークの聴衆から寄せられた質問におふたりが答える形で始まった>


(白井)いくつか同様の質問が寄せられています。
アメリカにおいて第3党の可能性、既存の2大政党以外について、です。
<わたしも「多党制について可能性は?」という質問を書いておりました>

実は、民主党、共和党以外の党も存在してて、ちゃんと党大会もやっていますよ。
テレビのニュースでは報道されないけど、ネットなら見られます。

(待鳥)2大政党しか機能していない、というのが現状。
第3党をつくって主張するか、2大政党の中に入り込んで主張するか、となると、2大政党の中のほうが都合いいワケです。
2大政党の中に入り込むことによって、党の政策に反映させる。
少数意見の反映ができていない、というわけではない。

(白井)オバマもクリントンも若いころは「左翼的」な活動をやっていたが、政治家になるとキバを抜かれてしまった気がする。

(待鳥)2大政党以外では「アメリカ社会党」がずっとあります。
左派のアジェンダで実現しているものもあります。たとえば、マイノリティの問題、大気汚染規制を実現した環境問題など。
そもそもケインズに先立って市場介入をやったのはアメリカです。
アメリカにおいて社会主義者って何だ? というと定義がむずかしい。

(白井)シリア介入を断念した時、アメリカはもはや世界の警察ではない。

(待鳥)シリア問題は対立構図が複雑すぎて、コントロールできない。
早い段階で手を打つべきだったかもしれない、という空気もある。
かつてはイスラエルロビーがあって、中東の利権を守る、という勢力もあった。
TPPはヒラリー、トランプとも推進には消極的。
一番積極的なのはオバマです。
オバマ後は、そう積極的にならないような気がする。
アメリカは国内事情の延長で対外政策を見る傾向がある。
国内の雇用が悪化すれば、TPP推進もしないだろう。
ある種のいい加減さがあることを前提に付き合ったほうがいい。

(白井)一番TPPを推進しているのは日本の経産省のロビー団体じゃないですか?(笑)。

あと、「日本はアメリカの政治から何が学べますか?」という質問です。
2大政党制をめざしていたものの、混乱しか起こしていない現状ですが。

(待鳥)日本でめざしていたものは違うと思う。
小選挙区を作り、2つの党あわせてどれぐらいの力をもっていけるか、それが日本社会をよくしているのか? という問題があります。
大統領制の下では政党はまとまらなくてもよいが、議院内閣制ではまとまっているほうがいい。
いわば組体操のようなもの。下に議員さんがいるわけです。
日本のほうが政治制度はシンプル。
そのしくみを理解して使いこなすことが必要。
特定の政党が力を持つことが望ましいか、望ましくないか・・・

(白井)もうひとつ質問。「今後の大統領制はどうなりますか?」。

オバマ政権は当初は議会も多数派だった。
でもいわば「チェンジ、チェンジ 詐欺」(笑)。
大統領の権力の在り方も変えないといけないのでは?

(待鳥)ルーズヴェルト大統領の時代の大改革のようなことは、もう起こらないと思う。
19世紀の頃のように戻したほうがいいという意見もあるが、困難な局面も続く。
いろんな考え、主張がある、という「いい加減さ」の背景がある。
多様性の源泉にあるある種のマジメさを見ると、やはりアメリカは若い国だと思う。

アメリカ社会の魅力はいろんな考えの人がいる、ということ。
第3党以下の人たちも一生懸命やっているし、やがて何かを変える可能性もある。
保守、リベラルというのもいつまで続くかわからないし、最高裁判所の判決が与える影響も無視できない。
そして、思うのは「アメリカ人はタフだ」ということです。


こうしてお話を聞いて思ったのが、堅くて近寄りがたいと考えていた「政治学」が、ひじょうに人間臭い分野なんだな、ということ。
わたしは子供のころからアメリカという国が好きになれず、そのせいもあってアメリカについてはかなり無知ですが、「アメリカの保守とリベラルはイデオロギー対立ではなく、経済政策の対立」「しかし経済的対立から社会的文化的対立に変わってきている」といった解説はなかなか新鮮な驚きでした。
(10月10日、中之島フェスティバルタワー12F アサヒコムホール)
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