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2016年10月07日16:15

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映画「怒り」

八王子の住宅街で夫婦が惨殺された。
現場には血糊で書かれた大きな「怒」の文字が。
現場に急行したベテラン刑事・南条(ピエール瀧)と若手の北見(三浦貴大)も、あまりの惨状に息をのむ。

1年たっても事件の犯人はつかまらない。
指紋から神山という男だとわかっているが、整形手術をして逃亡を続けていた。

同じころ、東京と千葉と沖縄に、身元不明の男が現れる。

ゲイの会社員・優馬(妻夫木聡)は、新宿2丁目で知り合った直人(綾野剛)とマンションで同居を始める。以前どこに住んで何をしていたかをたずねると口ごもる直人。
だが、死期が近く、ホスピスにいる母(原日出子)を、直人は一緒に見舞いに行く。

家出して風俗嬢として働いていた愛子(宮崎あおい)を、父親の洋平(渡辺謙)が連れ戻し、千葉へ帰ってきた。漁港では哲也(松山ケンイチ)という男が数か月前にふらりとやってきて、洋平のもとで仕事をしていた。
哲也は各地を転々とし、前は長野のペンションで働いていたという。
情緒不安定なところのある愛子だが哲也とはすぐなじみ、やがてふたりでアパートを借りて暮らしたいという。
洋平もアパートの大家(柄本明)も愛子が、身元のよくわからない哲也と同棲することに不安を覚えていた。

夜逃げのように、シングルマザーである母親と沖縄へやってきた泉(広瀬すず)。
親しくなった辰哉(佐久本宝)と小さな無人島へ渡ると、そこには田中(森山未来)が住み着いていた。
見るからに風来坊の田中だが、泉と辰哉は気になって、島に田中のために食料を持ってきたりする。

TVで、逃亡犯・神山の特集番組が組まれた。

優馬は、カフェで、女性と談笑する直人を偶然見かける。
彼はゲイではなく、女とも付き合うのか?
不信感を抱えたところに、直人はマンションからいなくなる。
八王子の事件の犯人と容貌の相似を思い出すが、警察からかかってきた電話には「そんな人は知らない」と叫んでいた。

洋平もTVを見て、身元のはっきりしない哲也が気になっていた。
だが愛子は「哲也君は、親の作った借金のためにヤクザに追われてるの。だから絶対に見つかっちゃいけないの。助けてあげて!」と懇願する。

辰哉は泉と一緒に那覇へ出かけたが、入った居酒屋で泥酔してしまう。
辰哉を探して、シャッターの下りた商店街をさまよううち、泉は思いもかけぬ事件に巻き込まれてしまった。
あまりの衝撃にどうしたらいいかわからない辰哉。
田中は民宿で働くようになり、辰哉には、味方だから、と励ます言葉をかけるものの、辰哉は次第に田中の行動をいぶかるようになる。

三つの場所に現れた男をめぐる事件が交互に語られ、それがお互いに響きあうようにして物語がすすんでゆく。
この男を信用したい、でも信じられるのか?
おのおのの場所で葛藤を抱えながら、男の正体はつかめない。

ひさしぶりに「ああ、“映画”を見たな」と思える作品だった。
キャスティングが「シン・ゴジラ」にも負けず豪華で(ピエール瀧は「シン・ゴジラ」にも出てたな)、不信と希望のはざまで交錯する心を、それぞれの俳優たちがよく演じている。
そして「神山」は誰なのか? というミステリーの要素もまじえ、物語がどんどん動いてゆく。

監督の李相日は「フラガール」「悪人」などの作品と同様、群像劇が巧みだと思う。
今回の「怒り」も、ひとつの出来事が次々に波紋を呼び、悲劇がそれぞれの3つの場所に波及していくかのようだ(韓国人監督・キム・ギドクをどこか思わせる)。

八王子の夫婦惨殺は、実際にあった「世田谷殺人事件」、逃亡犯は「英国人女性殺人事件」の市橋達也をモチーフにしているようだ。
音楽は坂本龍一。
静かなピアノ曲が、悲しみと、どうしようもない人生の苦さをさらにきわだたせる。

吉田修一の原作は読まずに映画を先に見に行った。
実をいうとわたしは、吉田修一の小説ってちょっと苦手なのだ。
「傑作」と評された「悪人」も、まったく感情移入できず、不消化なまま読み終わった記憶がある。
「怒り」は、宮崎あおいの出演を知って見に行ってみようと思った。
実はわたしは宮崎あおいのファン。
彼女がまだ子役で青山真治監督の「ユリイカ」に出たのを見たとき、
「この子、うまい! 絶対将来日本を代表する女優になる!」と注目してきた。
ただ最近はどうも「夫を支えるけなげな妻」みたいな役が多くて(「剱岳 点の記」や「天地明察」や朝ドラ「朝がきた」の、ヒロインの姉役など)、もっと爆発したような演技をさせたほうがいいのに、と思っていたところだった。
「怒り」の愛子役も、ちょっとおバカなところがあって社会生活になじめない、でもピュアな女の子という役柄がなかなか合っていた。

個人的にはこの秋の公開邦画では「君の名は。」よりもずっと力作だと思うんですが、
いかんせん、さほど話題になっていないのが非常に残念。
(10月6日、エキスポシティシネマ)
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