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2016年08月11日15:12

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アフロ記者

朝日新聞の“アフロ記者”として、そのユニークな髪型と、「電気をほとんど使わないライフスタイル」で一躍有名になった稲垣えみ子氏。
朝日新聞社を今月1月に退社し、なぜ「清貧生活」を送るのか、朝日カルチャーセンターの講座で「アフロ記者の現在・過去・未来」と題して語っていただいた。以下、お話の概要です。


「アフロ記者」って書いてますけど、わたし、朝日を辞めちゃったからもう「記者」じゃないんですよ(笑)。
記者生活は28年ですがそのうち20年以上大阪勤務です。
きょうも新梅田食堂でお好み焼きを食べてきました。

わたしの父は家電メーカーの営業マンだったんですけど、娘が家電をほとんど使わない生活をしているというのが皮肉なものですね(笑)。父が働いていたのは「家電が作る家庭の幸福」みたいなのがキャッチフレーズの時代でした。

就職活動のとき、マスコミは、読売新聞、NHK、ほかにTV局も受けて・・・受かったのは朝日新聞だけでした。
退社するときもったいない、これから何するの?とずいぶん言われたんですが、ステップアップじゃなくて「ステップダウン」、つまり閉じていく、降りていく、失っていく人生を目指しています。
肩書のない、人に雇われない人生です。

わたしは均等法施行直後の世代で、さいしょ高松支局に赴任したんです。
当時は、香川県下、唯一の女性新聞記者でした。
でも「特ダネ」が取れない記者。そもそも特ダネを取ることに興味がなかったんですよ。
それで花形記者になるのはムリだなあ、と。
わたしが活路を見出したのが、ロングインタビューの仕事でした。
どんな人の中にも、思いがけない宇宙がある、ということです。

神戸にいたころ、阪神大震災に遭遇しました。
死生観についてのインタビューの仕事をしてましたが、死が遠いものだったのに、すぐそこに死があるんだ、と実感することになりました。
奥尻島に行き、仮設住宅の人の話を聞いたのですが、自分たちも大変なのに神戸の人たちを心から心配してくれていたことに希望を持ちました。

40歳になって、音楽用語でいえば「デクレッシェンド」の人生だと思いました。
それまでは、会社で認められたい、お給料もたくさんほしいという拡大していく人生でした。
得ていくことがいいことだ、という価値観を変えないと、デクレッシェンドの人生がみじめになる、と思ったのです。
そこでお金をかけないでも楽しい趣味を始めることにしました。山登りとか・・・。
そうしたら、お金がないと楽しめない、というのは思い込みだったのでは? とわかってきたのです。
そしたら突然、お金が貯まりだして・・(笑)。
そうなると仕事の仕方が変わります。
会社からの評価はどうでもよくなる。だんだん仕事も楽しくなってきてやりたい放題になりました。

関電が半分を原発に依存している、と知って、わたしも電気を半分にしようと思いました。
それでレンジ、掃除機、こたつ、ホットカーペットを捨てます。
捨ててみると意外とたいしたことがなかった。
冷凍のご飯はレンジでチンしてたんですが、蒸し器であたためると、これがふっくらとしておいしい。
ほうきを使うようにしたら、お掃除が好きになりました。
今まで、なきゃいけない、と思っていたことが、なくてもやっていける、ないのがかえって楽しい、という状況。

そしてとうとう冷蔵庫を捨てます。
さいしょは冬だったからよかった。おひつを買う。これでご飯は1週間もつ。カピカピになったら、おかゆにすればいいんです。
でも問題は夏。作り置きができませんから。
その日食べるものを、その日に買って食べる。
かえってモノを腐らせなくなりました。
冷蔵庫って伏魔殿ですよ。
スーパーに行っても500円以上の買い物はしない。結果的に物を買わなくなりました。
冷蔵庫がなくなって、ストレスもなくなりました。

電気代はいま月160円(会場からどよめき)。
パソコン、携帯、ラジオなど家電がなくなってみると家が広いです。
欲を減らすといいことがありますよ。
いまのマンションは、収納がないという変わったつくりなんですが、そのせいで家賃が安い、でも広い。おかげで破格のマンションに住めました。

大変なことをガマンしてやっていると思われますが、これが快適でたのしい。
なければ生きていけない! と思っていたけど、なくてもやっていけるって、すごく自由を得た気持ちです。

最大のものは「会社がなくてもやっていける」ということ。
そこに至るまでは「節電生活」が大きかった。

わたしの親がまさにデクレッシェンドの状態です。
できないことが増えてくる、医者に行く、薬をもらう、健康食品を買う、つまり、得ることで治そうとする。しかし、老いは治りません。
モノが増え、そのモノを探すことで消耗しているんです。
失っていくことが悲しいことだと思っていると限界があり、価値観を変えていかねばならないと思います。
でも、失っていくことを肯定するのは難しい。

いま、銭湯は2日に1回、行く日はとても楽しく、朝から盛り上がります(笑)。

仕事がない世界にも、きっと希望と楽しみがあると思います。
見てないところに楽しさがたくさんあるはず。
これがないとできない! とばかり思っていると広大に広がる世界を見ていないのではないか、と。

人って人に親切にしたい存在なんじゃないかと思うことがあります。
お金でないかたちでやる手段もあるんじゃないかと。
会社を辞めた、と言うと、地方の知り合いから「ウチに泊まりにおいで」とよく言われるんです。
マジメな人ほど、失うものに敏感だけど、力を抜いてみる瞬間も大事です。

<ここで会場からの質問>
“アフロのメリット、デメリットは何ですか?”

アフロにしたらモテるんですよ(笑)。外国人とか、子どもがよく寄ってきます。
デメリットはですね、熱を持つこと、それから山道でコバエが寄ってきます。


“作家になる予定は?”

フィクションの構想はしないですね。小説は書きません。
けっきょく雑誌とかのコラムの依頼で会社員時代の10倍ぐらい書いてるんですけど・・


“服は何着お持ちですか?”

フランス人ぐらいですか?(ごんふく註・『フランス人は10着しか服を持たない』というベストセラーのもじりかと)
家には、クローゼット、収納、洗面台もありません。
でも手持ちのお洋服の中に、ほとんど着ない服ってかなりありますよね? それって「似合っていない服」なんですよ。そんな服を捨てると、逆に似合う服しか残らないんです。


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実物の稲垣さんはとてもほっそりした人で、そのスリムさがきわだっていました。
軽妙なお話ながら、昨今はやりの「断捨離」とも違う、「降りていく、捨てていく、なくしていく人生」という言葉に同世代(稲垣さんはわたしの3歳下)のわたしとしても、感じ入るものがありました。
わたしもすでに、できないこと、なくしたことが多くなってきました。
縮小しながらも楽しみや発見を見出せる、価値観を逆転させて考えてみよう、という稲垣さんの言葉はあたたかかったですね。
しかし、家族、とくにお子さんがいる家庭には、「究極の節電生活」はちょっと無理かも。

(7月28日、中之島フェスティバルタワー18階)
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