このところしばらく、あまりの猛暑ゆえ、映画館ともご無沙汰。
そんな中、ここ1カ月余りに見た映画3本。たまたまですが、みな韓国映画です。
「王の運命 歴史を変えた八日間」
18世紀、第21代の朝鮮の王・英祖<ヨンジョ>(ソン・ガンホ)は、息子の思悼世子<サドセジャ>(ユ・アイン)を後継者にすべく、幼少のころから厳しく育てる。
英祖は学問、礼法に秀でた王だったが、40歳を過ぎて生まれた息子は対照的に芸術や武芸が好きで、書物を読むより、絵を描いたり、弓を射ったりする青年になる。王はそれが許せない。しかし世子は、父親らしい情愛を受けることなく、時には苛烈なほどの厳格さでのぞむ王に反発を募らせてゆく。
交わらないふたりの心情はついに衝突、王は息子に謀反の疑いをかけ、木製の米櫃に息子を閉じ込める。世子のまだ幼い息子・サンは炎天下、父のために水をあげようと王宮の庭に放置された米櫃に向かうが、祖父である英祖にはばまれてしまうのだ。
どうしても息子を許せない王。
世子を助けようとする臣下の者にも王は容赦なく、八日ののち、世子は狭い米櫃の中で絶命する。
何より、孤独で頑迷な国王を演じる、ソン・ガンホがすばらしい。
壮年のころから年齢を重ね、老境に入った姿まで、声色さえそのときどきに合わせてみごとに変えている。息子を愛するが故なのに、そのかたくなさが悲劇を呼んでしまう葛藤が、李朝時代の絢爛たる衣装とともにうまく描き出されていた。
登場人物たちがまとう衣装も、豪華と言うより、落ち着いた品のある色合いなのがとても印象的。
なお、わたしは韓国映画はよく見るが「韓ドラ」はほとんど見ないので知らなかったのだが、英祖の孫のサンが、しばらく前にNHKで放映していたドラマの主人公「イ・サン」なのだそうだ。
映画では成長したイ・サンをソ・ジソブが演じている。
(6月30日・シネマート心斎橋)
「極秘捜査」
1978年の釜山。
街頭ではデモ隊を機動隊が激しく排除している。
下校途中の小学生の女の子が誘拐されるという事件が発生。
いっしょにいた女の子の同級生は、連れ去ったクルマのナンバーの2ケタだけを、かろうじて覚えていた。
事件を担当することになったコン刑事(キム・ユンソク)は、女の子の命がかかっていることもあって、極秘捜査をすすめるが犯人からの接触はいっこうにない。
両親はワラにもすがる思いで導師(占い師)のところへ行くが、「娘はもう死んでいる」と言われるばかり。
しかしキム導師(ユ・ヘジン)だけは「娘は生きている」と言うのだ。
15日後に犯人から連絡がある。コン刑事が娘を助けてくれる」と。
キム導師は師匠とは意見が合わず、師匠も娘は死んでいる、と断言。
しかしながら、予言通りにほんとうに犯人から15日後、電話がかかってきたのだ。
誘拐犯からの連絡に両親も捜査本部も翻弄される。
ついにはソウルへと接触場所が変わる。
人命第一に捜査をしようとするコン刑事だが、ソウルの警察は捜査に協力的ではない。
釜山とソウルとの縄張り争い、手柄争いにコンはうんざり。
師匠から破門状態のキム導師は、必死に連れ去られた女の子の行方を占おうとする。そして脳裏に浮かんだ場所を、コン刑事に告げるのだが・・
韓国での実話に基づく映画らしい。それにしても生死を占いで決めるなんて・・!? とびっくりしてしまうが。
まだパク・チョンヒの軍政下時代。催涙ガスでの民主化運動のデモ鎮圧が日常だった。
街並みにも、人々の服装にも70年代らしい様子がよく出ている。
日本人のわたしが見てもどこか「昭和っぽい」なつかしさがある。
犯人を追うスリリングさやカーチェイス、そして警察の一匹狼であるコン刑事のふてぶてしさも面白い。わたしはキム・ユンソクはどうしても坂上忍に見えて仕方ないんだが・・(笑)。
誘拐事件というサスペンスに加え、警察内部の権力争いや、部下の手柄を平然と奪ってゆくえげつさがもうひとつのストーリー。
導師役のユ・ヘジンは、ハッキリ言えばブ男だが、韓国映画のわき役では数多く登場し、味のある俳優である。
(7月5日・シネマート心斎橋)
「ダイビング・ベル〜セウォル号の真実」
記憶に新しい、2014年4月に韓国・珍島沖で発生したセウォル号沈没事件のドキュメンタリー。
“ダイビング・ベル”とは、潜水作業に使用する筒型の機器のことである。
ドキュメンタリー監督のアン・ヘリョン氏と、「告発ニュース」の記者・イ・サンホン氏が共同で監督した。
なぜセウォル号は沈没したのか、なぜ多くの乗客の命が救えず、ことにまだ若い高校生たちがたくさん亡くなったのか?
岸壁に集まった乗客の家族や、潜水会社のイ・ジョンイク氏の声をまじえつつ、刻々と犠牲者はふえていく。
家族たちは一刻も早く子どもたちを見つけてほしい、と叫ぶ。
だが海洋警察も海上保安庁も、イ・ジョンイク氏所有のダイビングベルの投入に消極的だった。
いや、むしろ妨害さえしていたとも見える。
海流の速さやロープの不安定さを口実にするが、これでは「何かを先延ばしにしている」としか思えない。
それは真実が露見することなのではないのか?
違法に改造された旅客船。積載オーバーに口をつぐんだままの船会社。
不正が闇の中に葬られて、その結果、若い命が奪われた。
「告発ニュース」の記者が怒りを込めて報道しようとするが、大手マスコミは海洋警察の奮闘ぶりを伝えるばかり。情報統制されている、と記者はいきどおる。
ラストシーンで息子を亡くした父親は「見舞金がほしいのではない。真実を明らかにしてほしいだけです」と訴えていた。
誰かの地位や名誉を守るため、悲惨な事件に至ったのだ、真実は隠蔽されている、と映像は訴えていた。
実際この事件は、船長が真っ先に逃げ出したり、船会社の金もうけのために安全がおろそかにされたりと、ひどいものだった。何より、修学旅行を楽しみにしていた大勢の高校生たちが水死したのが痛ましい。
しかし、このドキュメンタリーが釜山国際映画祭に出品されたことで、物議をかもしてしまった。
事件の遺族からも批判が出ているし、政府や警察を激しく糾弾しているため、政治的中立を欠く、とのことで映画祭への補助金が大幅に削減されるという事態になっている。
セウォル号はまだ海に沈んだままだ。
(7月29日・シネ・ヌーヴォX)
※映画館のロビーに展示されていた「王の運命」のポスター。光が反射してわかりにくいが、右上部に、ソン・ガンホのサインが書かれています。
ログインしてコメントを確認・投稿する