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2015年08月20日08:42

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井上ひさし著「井上ひさし短編中編小説集成第10巻」を読んで



照る日曇る日第807回

 本巻の目玉は、なんというても忠臣蔵ならぬ「不忠臣蔵」でありましょう。

 古来数多くの作家、戯曲家がこの主題を取り扱ってきたわけですが、著者の目の付けどころはまったく独創的なもので、そこから切りだされた19の短編も他の凡百の凡庸な作家の追随を許さない個性的なものだった。

 著者いわく。「赤穂藩には当時300余人の家臣がいたんですが、討ち入りに参加するのは全体のわずか六分の一弱。参加しない方が圧倒的に大勢なわけです。それなら参加しなかった人たちを徹底的に書いた方が日本人というものがハッキリ出るんじゃないかと思いましてね」

 これが瓢箪から駒ならぬピッタシカンカン。搦め手から本流を取り込む反主流派のアプローチがどんぴしゃりと嵌って、前代未聞、空前絶後の「裏忠臣蔵=真忠臣蔵」像を生みだしたのだから、いかに対象への光線の当て方が大事か分かります。

 登場するのは小納戸役・中村清右衛門から始まって、江戸給人百石・松本新五左衛門まで、ほとんど初めてその名を聞く赤穂藩関係者19名。本当は47名を扱う計画だったそうですが、それが実現しなかったのがじつに惜しまれる、これは小説家井上ひさしの代表的傑作と断言できませう。

 おまけに巻末には、著者による労作「不忠臣蔵年表」もついていて、泣かせてくれます。

 蛇足ながら、在々奉行・渡部角兵衛の項に登場するかの「葉隠」の著者山本神右衛門常朝は、日頃は「昼行燈」と評されるくらい何もしなくて、討入に際してだけ獅子奮迅の働きをした大石内蔵助に批判的で、「常日頃から短気で問題を起こしやすかった主君を、全身全霊を尽くして間違いを仕出かさないように善導すべきであったのに、情けない家老もあったものだ」と罵っているそうですが、むべなるかなと思った次第です。


社会の窓を開けたままにする車谷長吉妙な奴だと思いしがいつのまにか自分でもしておる
 蝶人

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