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2015年07月01日08:26

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読書日記No.835(追悼・車谷長吉、代表作にして直木賞受賞作)

■車谷長吉「赤目四十八瀧心中未遂」2013年7月第18刷文春文庫

「最後の私小説作家」と言われた車谷長吉さんが、5月17日に亡くなった。

追悼の意をこめて何か読みたいと思って、紀伊國屋書店・新宿店を覗いたら、
追悼の帯をつけた本書があり、ゲット。

この代表作にして、直木賞受賞作品を、私は読んでいなかったのです。

読み終えて、濃密で深い私小説・傑作の深淵を堪能。
まさに地獄めぐりのように、「あちら側」に行って、昨夜帰還した。

追悼の帯の文言を、書き写しますね。

“反時代的毒虫と自称した私小説作家の代表作にして直木賞受賞作。
追悼 車谷長吉さん”

“アパートの一室で串にモツを刺しつづける男―
 向かいの部屋に住むかりょうびんが(漢字変換できません)の刺青を背負った女―”

“男女の情念の限りを圧倒的な筆力で描いた本作は、1998年、第119回直木賞を受賞。
文壇は騒然となる。その後映画化され(寺島しのぶ主演)話題を呼ぶ。”

“急逝した私小説作家が21世紀の我々に遺した傑作。”

圧倒的な小説作りの巧さと見事な文章で、底辺に住む人々の情念を描ききった
本作品は、確かに「文壇を騒然」とさせるパワーを秘めている。

なんだ、この新人作家はと、「楢山節考」以来の衝撃ではなかったか。

車谷長吉(ちょうきつ、と読みます)は、1945年兵庫県生まれ。慶応大学の文学部
を出たあと、広告会社に勤めたが、世を捨て、料理屋などで働きながら小説家を
目指したという。

うわっつらの言葉ではなく、生身の人間の「尻の穴から流れ出る」ような言葉を
拾い集め、物語として結晶させる、そのパワーは、読者の魂を鷲づかみにして
暴力的に引きずり回して離さない。

こんな小説を読んだのは、何年ぶりだろう。

本書は、文庫なので、解説がついており、川本三郎さんが書いているので、
その解説の冒頭部分を引用。

“口当たりのいい作品が多い現代文学にあってkと「赤目四十八瀧心中未遂」は、
異物のように傲岸と屹立している。異彩を放っている。”

“主人公の「私」はかつて会社勤めをしていたとき、坊主刈りで書類は頭陀袋に
入れていたというが、その異形の姿は、作品そのものにも反映されている。”

“現代の多くの小説が、社会の表層に浮遊しているだけなのに対し、車谷長吉は、
時代の流れに抗うように、社会の底へ、人の心の深部へと下降していく。”

“日々、消費されていく日常の時間とは別のところに身を置こうとする。
生半可な言葉を拒否し、生の深みへ、淀みへ、泥土へと降りていこうとする。”

見事な車谷文学論である。

しばらく小説を読んでいなくて、魂が少し渇き気味だったが、一挙に満たされる。

車谷長吉さんのご冥福をお祈りします。
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