mixiユーザー(id:2230131)

2010年07月20日22:59

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Thriller/Michael Jackson

 世界でもっとも売れたこのアルバムに対して、いまさら僕なんかが語れる言葉はないかもしれない。
 だけど僕は、2010年現在の視点で、マイケルを誤解している人々に向けて、あえて『スリラー』を語ってみようと思う。

 まず、マイケル・ジャクソンをソロ・アーティストだと思ってはいけない。クインシー・ジョーンズとマイケルが司令塔となり、その他大勢の人々が関わった共同プロジェクトだと思った方が良い。
 次にムーンウォーク。あれもこの際、無かったことにしよう。マイケルは人前に姿を現すことのないシャイボーイだった。メディアに露出してるアイツは影武者である。そう仮定しよう。

 なぜそんなことを言い出したのかというと、『スリラー』にはあまりに余分なモノが付きすぎてると感じたから。本作が巻き起こした社会現象、後世に与えた影響力、ビジュアル表現、そしてもちろんマイケル自身の強烈なカリスマ性とスター性。
 そういった本来なら避けては通れない要素をすべて無かったことにして、一旦『スリラー』を丸裸にする必要があると感じている。

 すなわち、純音楽的な視点に立ち返って『スリラー』を眺めたとき、そこになにが見えてくるのか。
 その結果、ごく控え目に評したとしても、『スリラー』は普通に素晴らしいポップ・アルバムだと思うのです。ただの音楽作品として。

 まず、リスナーの層を限定してないのが良いですね。あらゆる人種や国境を飛び越えられる、ポップ・ミュージックとしてのでっかい器がある。おっと、こういう語り口がすでに純音楽的じゃないので(笑)、僕も気をつけないといけない。

 でもホントに、1曲目“スタート・サムシング”から白黒入り混じったタイトなファンク・アンサンブルが炸裂して、真面目に解説するのがバカバカしくなってくるくらい。
 誰もが聴き飽きたはずの“スリラー”にしたって実は同じで、本来はメチャクチャマニアックなディスコ・ナンバー(?)として作られたはずだが、こういうものがスタンダード化してしまうところにマイケルの凄みがあるし、ある意味では悲劇だったのかもしれない。だって、長編PVなんかも作っちゃって、決して後戻りできない線路をみずから敷いてしまったようなものだから。

 そういう観点で言うと、ポール・マッカートニーとのデュエット“ガール・イズ・マイン”なんか全体の流れから少々浮いてる気もするけど、素直に良い曲だと思える。
 更に、“ビリー・ジーン”に参加したベーシストのルイス・ジョンソンをはじめとして、前作から続いて一流プレイヤーたちが脇を固めているのも見逃せない。ただし、エディ・ヴァン・ヘイレンが客演した“今夜はビート・イット”のハードロック路線にいたっては、さすがにやり過ぎというか、品が無いのは確かだけど。

 総評して、前作『オフ・ザ・ウォール』の非の打ちどころの無さと比べちゃうと、「黒人にも白人にも受ける大文字なポップ」というコンセプトがあざとく、話題性に引っ張られてしまった感も否めない。しかしそこは合計42分という簡潔さでもって、ラストまで逃げ切った感もある。

 っていうか、7曲目“ヒューマン・ネイチャー”まで関して言えば、なんだかんだで楽曲のクオリティーはハンパなく高い。いくらオーヴァー・プロデュース気味だろうと、味付けが濃すぎだろうと、質の高さだけは認めないわけにはいかないでしょう。前述したように、マイケルにまつわる音楽以外の「余分なモノ」が、かえって本質を見えづらくしていて、今に至っているような気がする。
 実はこれ、今回で一番強調したいところでもあります。

 昨年、急速にマイケルの再評価が起こったけれど、世界中がだいぶ感傷的なムードに引っ張られちゃって、意外とこういう話って棚上げにされてきた気がする。だって、興味のない人にとってはマイケルなんて永遠にトリック・スターでしかないだろうし、そういう人たちに下手にエンターテイナーな部分ばかり強調しても、誤解は広まる一方だと思う。

 つまりね、マイケルが音楽人として素晴らしいかとか、エンターテイナーとして一流だとか、そういう議論は割とどうでもよくって、単純に『スリラー』は聴くに値する素晴らしい音楽作品なんだってことを僕は言いたいのです。まずはそこを誰かがちゃんと言っておくべきだった。

 一度マイケルにまつわる先入観をすべて消した上で、『スリラー』を楽しんでみると良いかもしれません。
 本当に、普通に良い作品ですから。(あんなに売れるのはいくらなんでもだけど…)
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